ジーコ日本代表監督講演 in 第3回フットボールカンファレンス・ジャパン

(平成15年1月11日 パシフィコ横浜)

 私の目の前には、将来の日本サッカーを支えていく方々と、現在、青少年をご指導されているコーチの方々がいらっしゃいます。

 私も引退してから、そうした経験を経て現在に至っています。そういった年代の子供たちを指導するということは、大変難しいことであると同時に、とても有意義なことであると私も感じていますし、その地道な努力の結果として、日本代表監督という立場にあります。ですから、皆さんも一瞬一瞬を大切にして、自分の生徒、選手ひとりひとりを大切にしていただきたいと思います。また、みなさんの分野におけるご質問などがありましたら、いつでもお願いします。

 

■アウエーの試合を増やしたい

 今回、私は代表監督をお受けしたわけですが、ひとつの大きな目標は2006年のワールドカップ本大会出場であります。

 今、日本がやらなければならない急務のひとつとして、前回のワールドカップが非常にいい成績であったことを踏まえて、今後(ワールドカップ・アジア)予選を勝ち抜いていかなければならない、という試練があります。予選を突破し、本大会に出場するために、1年1年を大切にしながら、しかし1年ですべてを成し遂げるのではなくて、ゆっくり一歩一歩前に進みながらやっていきたいと思います。周囲の期待も大きいですが、選手たちが伸び伸びと成長していけるように、また、今回のワールドカップを迎えるに当たって成長してきたものを継承していく仕事も想定しています。私の頭の中には、何をしなければならないかについてのプログラムが、すでに存在しています。ただし、すべてがうまくいくとも思っていません。

 この2003年では、東アジア大会、キリンカップ、コンフェデレーションズカップ。2004年は、キリンカップと練習試合、アジアカップ、そして(アテネ)オリンピックもあります。このオリンピックは、若い世代が世界に対してどれぐらい通用するかを測るいい機会ですので、その働きによって(五輪世代が)A代表に登り詰めるチャンスにもなります。2005年は、キリンカップ、親善試合、そして、危険度の高いワールドカップ予選が始まります。それを通過した後に、2006年のワールドカップ本大会となります。

 特に、この(4年の)中で大切なのが、2003年です。監督も代わり、日本代表チームは、その哲学を含むすべてが変わっていきますので、これまでのキャリアで培ってきた私のノウハウを少しずつ選手に吸収してもらい、ピッチで結果が出せるようにしてもらうためのファーストステップだと思っています。

 特に協会のみなさんに理解していただきたいのは、アウエーでの試合を増やしたい、ということです。

 私は、アウエーでの厳しさを体験することによって、選手たちが格段に成長すると考えています。特に、アジアの国同士の戦いが注目されていますが(注:東アジア大会、アジアカップのことか)、そうではなくて、その外に出て行くということが大切だと思います。

 これは韓国の例ですが、彼らが今大会、非常に良い成績を収めることができたのは、自国開催でサポーターがチームに大きな力を与えたということがあったと思います。しかし、これからはアジアの外でワールドカップを戦わなければならない。そのためにはアウエーの難しさを、日本だけではなくアジアの国々が外に飛び出して経験を積むことが必要だと思います。

 世界へ顔を出す、ということで満足することなく、さらに世界へアピールすることを考えると、やはりアウエーで好成績を挙げることが大切です。これはワールドカップだけでなく、オリンピックも同様です。

(日本としては)前回の大会と合わせて、2大会連続で良い成績を収めることを目標に置いて、今後も強国と戦っていきたいと思います。アジアの中での限られた大会ですと、切磋琢磨(せっさたくま)することはできるでしょうが、ワールドカップでさらなる結果を残すためには、ほかのエッセンスが必要になってきます。そのエッセンスを得るためのアウエー戦(が必要)、ということです。

 それを実現するには、迅速なスケジュールの提出が必要です。これは日本だけでなく、アジア全体を含めて、効果的なスケジュールを組むためには、(AFC=アジアサッカー連盟)全体のカレンダーが必要です。できるだけ早く、そのカレンダーを提示していただきたい。そして、そのスケジュールをもとに、代表とクラブが十二分に強化できる体制を組みたいと思います。

(AFCの)ベラパン会長には、アジア全体の大会のコーディネート、とりわけスケジュールの早めの決断をお願いしたいと思います。そしてアジアの中でも、クラブ間のレベルの高い大会を多く組んでいただきたい。アジアでのクラブの戦い、そしてFIFA(国際サッカー連盟)の世界クラブ選手権――これも数年のうちに再開されると思いますので、そこでもアジアのチームが好成績を収められるように、みなさんと取り組んでいきたいと思います。

 世界クラブ選手権は、代表とは別に、ヨーロッパ、南米、アフリカ、アジアの強豪クラブが切磋琢磨するという意味で、非常に興味深い大会だと思います。そういった大会をうまく運営するには、先ほど申し申し上げた通り、全体的なスケジュールの早期決定によって、この好機が生かせるのだと思いますし、ひいては代表にとっても早めのプランニングができるということですから、それによって少しでも多くの有効な試合を組んでいきたい。なかなか難しい問題ではありますが、代表とクラブとの間で、良い関係を保ちながら取り組んでいきたいと思います。     

 

■海外で活躍する日本人選手について

 日本サッカーの大きな飛躍の要因として、多くの日本人選手が海外で活躍しているという点が挙げられます。

 前回のアルゼンチン戦では、何人かの選手がそれぞれのリーグの都合で参加することができませんでした。「どうして無理しても呼ばないのだ」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、逆に考えれば、所属するクラブが「代表に戻したくない」と思うほど、彼らは活躍をしているわけです。そうではなくて「いつでも行っていいよ」という状況では、それは日本のためにもならないと思います。

 選手を出したくないとクラブ側が思うということは、それだけ日本のサッカーが成長してきた裏付けだと思います。私は彼らが、高いレベルで切磋琢磨しながら、日本のサッカーに大きなものを持ち込んでくれると信じます。やはり(欧州サッカーの)歴史の長さ、日本とは違った厳しい環境の中で育まれた経験と能力が、日本代表でも発揮されればいいと思います。

 (海外でプレーすることで)選手が学習し、ほかのチームメートがその選手から学習する。そして、勝利に結び付くようなプレーをする――今から、それを(象徴するシーンを)ビデオで紹介します。

<ビデオ:フランス代表、ナイジェA代表、ブラジル代表>

 最初にご覧いただいたのが、フランス代表です。98年(のワールドカップで)非常にいい成績を挙げました。プラティニを中心として世界を席けんした、80年代の素晴らしいサッカー。それを受け継いだ、ジダン、アンリなど、みなさんよくご存じの有名な選手たち。この偉大なフランス代表にしても、選手たちは他の国での厳しい環境の中で経験を積み、その美しい技を磨いていったのです。

 その意味では、アフリカの強豪・ナイジェリアもまた、その地位まで登り詰めるために、いかに多くの選手たちが、ヨーロッパを中心にプレーしていたか。カメルーンもそうです。オリンピックでの素晴らしい活躍、ワールドカップでの好成績。セネガルもまた、今回のワールドカップで非常にいいサッカーを見せましたが、やはりほとんどの選手がヨーロッパでプレーしています。

 最後にブラジルをご覧いただきました。これまでに4度、今回で5度目の世界チャンピオンになりましたが、セレソンもまた、ほとんどの選手が海外でプレーしています。そうした選手を集めて、個々の才能をひとつのチームに生かした結果が、今回の優勝につながりました。特に、イタリア、スペイン、ドイツ、イングランドなど、自分たちの国とは異なるレベル、高いレベルのリーグで鍛えられることによって得られる経験や能力。それが、それぞれの母国の代表にフィードバックされて、いいチーム作りをしながら結果を出していくわけです。

 日本の選手も、このようにサッカーの強国に数多く進出しています。私は(海外でプレーする)彼らを全員訪ねて回りましたが、それぞれが環境によく溶け込んでいて、サッカーに対する情熱をさらに増しながら切磋琢磨していました。自信を持って自分のサッカーを追及しています。一人ひとりが勝利にこだわるようなリーグの中で戦っていますから、目つきも違っていました。こうした事実に、私は非常に感銘を受けましたし、このままいい形で成長してもらいたいと思います。

 ただし、現在のレベルで終わってしまうのではなく、ヨーロッパの各クラブで得たものを日本に持ち帰って、日本が世界に対していい成績を収められるようにフィードバックしてほしい。現在のヤングジェネレーションは、テクニカルの面でもいいものを持っている年代です。ひとりでも多くの日本人選手が、ヨーロッパで経験したものを日本に持ち帰って代表にフィードバックする。これが(代表強化の)一番のポイントと思っています。

 選手たちは皆、母国を離れ、自分の家族から離れ、非常に厳しい日々の中で切磋琢磨しています。これを続けていけば、アフリカの強国・カメルーンやセネガルのように、(日本が)アジアの強国として世界に君臨するのではないかと考えています。それこそが、私が彼らに望むことです。気候や環境の違い、あるいは国民性やサポーターの気質の違い――私もかつて、現役時代に同じような経験をしてきました。そしてそういった経験が、自分をさらに成長させる結果となったことを、私自身が身に染みて感じています。

 

■システムよりも選手の能力を重視

 これから、そういった選手を起用しながら、どういった形で代表は戦っていくのか。特にシステムの問題については、皆さんさまざまなご意見があると思います。世界的にも、なかなかベストの形というのは生まれていない状況で、監督によってシステムに対する考え方はまったく違いますし、昨今のサッカーでは、非常に多くのシステム、フォーメーションを見ることができます。4−4−2、3−5−2、4−3−1−2、4−5−1、あるいは4−6−0のような極端なシステムさえ見られます。

 私の考えでは、確かにシステムやフォーメーションは、勝つための重要な要素ではあります。監督の考えによって、チームが動きやすくなる、より勝利に近づくことが可能になるのは、システム、フォーメーションによって少なからず左右されると言えるでしょう。しかしながら一番大切なことは、勝利に貢献するのはシステムやフォーメーション以上に、選手の才能だと思います。ひとりひとりの能力、つまりは個のレベルを高めることによって、システムがもららす以上のものが得られる、ということなのです。 逆に、システムと選手の才能や能力が一致していない場合、そのシステムでは確実な効果が得られない、と言えます。

<ビデオ:ワールドカップに出場したタレントたち>

 今ご覧いただいたほかにも、素晴らしい選手がたくさんいましたが、今回優勝したブラジル代表の中で、私は特にリバウドとロナウド、彼らの活躍を非常に評価しています。ただしこの2人の場合、予選ではいいコンディションではなく、本来の力を発揮できなかったために、多くの批判にさらされました。それでも、本大会に入ってから優勝するまで、彼らは本当に力強く貢献してくれました。心から賞賛したいと思います。

 フランスについては、今回の大会ではあまりよい成績を収められませんでした。みなさんも期待していたジダンも、ケガによる不振に苦しみ、本来の力を出し切れませんでした。ポルトガルもアルゼンチンも同様で、やはり本来の力を出すべき選手が、それができなかった。これでは、どんなフォーメーションを試みても、なかなか結果が伴わないでしょう。

 アルゼンチンは、ベロンの調子次第でかなり結果が左右されました。イタリアも同様です。デル・ピエロは、私も最高の選手だと思いますが、監督との関係に問題もありました。(トッティが出場することで)デル・ピエロが出ないイタリアは、本来のイタリアではなかった。これまでイタリアが世界の強国として君臨してきたのは、デル・ピエロ、バッジョ、その前ならリベラ、ゾーラといった歴代の能力の高い選手に負うところが大きかったと思います。

 そこで私の哲学なのですが、こうした高い能力を持った選手たちを“いかに”自分のチームで能力を発揮させるか――システムはそのために存在するのだと考えます。そして、今の日本にとってベストのシステムは、4−4−2、あるいは、4−3−3であると私は考えています。このシステムを用いることで、日本の選手たちの能力を引き出すことができるでしょうし、個人のクリエーティブな部分、あるいはタレントを発揮できると考えます。ですから私は、これからもこのシステムにこだわっていきたいと思います。

 

■ベルギー戦以降のブラジルは4バックだった

 この決断に至った経緯について、過去に優秀な戦績を残してきたチームをビデオで紹介しながら、説明していきたいと思います。特にブラジル――今大会、ブラジルは3バックで戦ったという見方が多いですが、私はそう思っていない、ということも含めて、説明したいと思います。

<ビデオ:ブラジル代表>

 まず、1次リーグに入った時のブラジルの基本システムは、ディフェンスェ3枚、中盤に4枚で、ロベルト・カルロスとカフーがサイドのポジションで、クレベルソン、当初はジュニニョがここ(守備的MF)にいました。そして前の3枚は、ポジションチェンジも見られましたが、ほとんどフィックスの形でした(注:ジーコの説明によれば、この時のブラジルのシステムは3−4−3)。1次リーグにおいて、ブラジルはこのシステムで非常に苦戦したわけです。原因は、後ろの3枚。ここのスペース(両サイド)がかなり空いていて、そこを突かれて苦しんだんです。ただし、(決勝トーナメント初戦の)ベルギー戦の後に、システムが変わりました。クレベルソンがジュニニョの代わりに入り、後ろのバランスが良くなったために、前の3人の能力が発揮されて、ロベルト・カルロスとカフー、両サイドの持ち味も出たということです。

 私が見たところ、ブラジル(のディフェンスは)は3人でではなく、4人で守っていたのです。カフーが右サイドを上がります。そこで、ルシオがカフーのカバーリング。エジミウソン、ホッキ・ジュニオール、そして(左サイドの)ロベルト・カルロスが中に絞りながら戻るわけです。

 左サイドをロベルト・カルロスが上がると、今度は逆のカバーリングの動きです。カフーが戻って(守る)という形ですね。ということは、常にブラジルの最終ラインは4枚、中盤が3枚、前に3枚、ということは、4−3−3。3つ目のオプションとして、センターバックの中央が上がっていくケースでは、中盤の2枚がカバーに入って、後ろが4枚となります。こうやってバランスを保っていたわけです。

 ベルギー戦の後、このシステムがうまく機能するようになって、ブラジルは非常に良いバランスを保つことができました。

 先ほども言いましたように、(今大会のブラジルは)伝統的に築き上げてきた要素が少なかったにもかかわらず、こうした試行錯誤を重ねながら勝利し、決勝トーナメントに進出しました。アルゼンチンにしても、同様のことができる力はあったと思うのですが、それが今回はうまく修正できず、1次リーグ敗退という結果に終わってしまったのだと思います。

<ビデオ:フランス代表>

 今度はフランスのビデオに移ります。フランスもここ数年、4枚のバックで力を発揮してきたチームです。

 センターバックがブランとデサイー。その前に2枚のボランチ。そして、ジダン、ジョルカエフ。(前線は)アンリからトレゼゲになって、またアンリに戻ります。98年フランス大会のブラジルと対戦した決勝。フランスが考えたのは、ここ(両サイド)のスペースにブラジルを入り込ませないことですね。4−4−2を保ちながら、サイドのスペースを消すということです。

 私もこのシステムを採用していますが、この一番危険なゾーン(両サイド)を相手にえぐらせてはならない。最近のゴールの統計によれば、ゴールの8割が、このスペースからのクロスで生まれています。フランスは、リスタートであれ、流れの中であれ、このサイドのスペースをブラジルに絶対に割らせないことを徹底していました。それから、ボールを奪った後にブロックで攻撃に移行すること。

 このシステムで重要な役割を担う選手は、やはりジダンです。今回はジダンのケガで、なかなか(フランスの)良さが発揮できず、不本意な結果に終わりました。私は、このシステムが機能する60パーセント(の部分)が、この選手に懸かっていると考えています。

 

■問題は左サイドの人材

 ここで、4−4−2、あるいは、常に4バックで良い成績を残している、今までみなさんがよくご存じのチームをご紹介します。

<ビデオ:レアル・マドリー、マンチェスター・ユナイテッド、鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田>

 今、ご覧いただいたように、マンチェスター、レアル・マドリー、鹿島、磐田――いずれもDFラインが4枚です(注:ジュビロを除く)。

 これはレアルの布陣ですが(ボードを使ってシステムを説明)、こういう形ですね。やはり、このバランスの良さから、それぞれの選手の才能が生かされている。マンチェスターも同じことですね。ベロン、ベッカム、前線の能力のある選手。このような選手たちが能力を発揮する背景には、こういった(4バックという)ベースがあるんですね。

 次に日本のクラブを見てみると、鹿島の場合は常に、このブラジルスタイルの4枚のDFラインに、中盤4枚とFW2枚。場合によっては、前が3枚になって4−3−3。常にディフェンスは4枚で、非常に安定した力を発揮しています。

 ジュビロの場合は、当初、ドゥンガが来日してプレーしていた頃は、4枚のバックラインでした。その後、ドゥンガが抜けてから、鈴木(政一)監督のさい配によってシステムが(3バックに)変わりました。この鈴木監督が指揮した磐田の3バックですが、私の長いサッカー人生の中でも、これほどバランスが取れた3バックは見たことがありません。

 逆に言うと、こうした高い資質を持った選手たちは、フォーメーションの変化にも戸惑うことはないわけです。通常、4枚のバックから3枚のバックに移る時には、どんなチームでも苦労するものですが、ジュビロは非常にスムーズにそれをやってのけた。それは、ジュビロの選手たちの才能によるものだと思います。ただし、クラブと代表とでは状況が違います。クラブの場合、4バックから3バックへの変更は、ある程度、時間をかけることができますが、代表にはそうした時間がありません。

 昨年のジャマイカ戦、アルゼンチン戦では、ジュビロとアントラーズから多くの選手を起用し、それに海外組を加えました。より安定した力を発揮できるチームから選手を選ぶという手法を取りました。(選考で)非常に困難だったポジションは、左のサイドバックでした。ここの適任者を探す作業を続けていますが、現在Jリーグのほとんどのクラブが3バックを採用しています。代表の場合、練習する日程が限られているため、ウイングバックの選手をサイドバックに適応させるのは非常に難しいと考えています。私が代表監督でいる限りは、特定のポジションでやっている選手を、別のポジションで起用するつもりはありません。1シーズン、中盤でプレーしている選手を代表で左サイドで使うということは絶対にしません。

 ジャマイカ戦では、服部を左サイドに置いたのですが、(ジュビロでの)3バックの場合は、それより前のポジションでプレーしています。それでも、4バックの時は左サイドをやっていましたし、ワールドカップでの経験もあったので左サイドに置いたところ、能力に見合ったパフォーマンスを見せてくれました。

 アルゼンチン戦では、コンディション調整の面で服部が出場できなかったので、中西を使いました。中西も4バックの経験がありますし、非常によい守備を見せてくれてたと評価しています。私の考えをご理解いただきたいのですが、クラブでは長い練習時間がありますので、(異なるポジションに)適応することもできるかもしれません。しかし代表では、ほとんど時間がないため、選手を別のポジションに起用しないほうがいい、その方がリスクが少ないということです。もちろん、練習時間を相当確保できるのであれば話は別ですが。

 それに選手にとっても、自分が長くやってきたポジションの方が、やはりプレーしやすいわけです。そのポジションを代えることによって、その選手の能力が発揮されなければ、チームにとっても大きな痛手になります。そういった人間が複数いるとすれば、良い成績を残すことが困難になるわけです。

 これまで私が招聘(しょうへい)しているメンバーに関しては、ほとんどがクラブでも同じポジションをこなしている選手です。この間、招聘したメンバーには、練習が始まる前に一人一人に「どのポジションが一番やりやすいか」と聞いた上でメンバーを決定しました。繰り返しになりますが、限られた時間の中で、また海外組の招聘が難しい中で、Jクラブの監督には、代表の哲学を理解していただいた上でのサポートをお願いしたいのです。

 

■ディフェンスラインはフラットにするな

 今、私が少し不安に感じていることがあります。それは、日本の選手たちは、心理的に不安定な部分があるということです。90分の内、85分間いいプレーをしていても、最後の5分間の集中力の欠如で試合に負けてしまうというのが、代表においても、クラブにおいても起こり得る。やはり、世界大会でいい成績を収めるためには、これは絶対に修正しなければなりません。

<ビデオ:日本対アルゼンチン戦での失点シーン>

 前半は非常にいい形でした。ここで(後半早々)ファウルとなり、一瞬の集中力の欠如。ここでベロンがボールを通す。日本のディフェンスは、相手選手の近くにいるのですが、決してマークしている状況ではない。そして、オフサイドじゃないかと抗議している。一瞬の集中力の欠如によって、こういう結果になりました。アルゼンチンのような強豪と対戦する時、こういうことが起こってはいけないです。この失点が、精神的に尾を引いてしまい、数分後に2点目を決められてしまう。

 これはJリーグでも、昔からの課題であったと思うのですが、3−0で勝っていても、1点を失ってしまうと途端に安定性を失って、同点、逆転されてしまう。まずは対話によって、そうした面を改善していきたい。あるいはクラブの中で、それぞれの監督にこういった(集中力の欠如という)問題について指摘していただきたいのです。

 常にどんな練習、どんな試合においても、そういった面を克服していくように努力していただきたい。時間があれば、こういったことを練習の中で修正できるのですが、できるだけクラブの方で改善していただき、常に代表で結果を出せるようにしたい。そう、期待しています。みなさんなら必ず、選手を導くことができるはずですし、必ずいい結果を出せると思います。

 次にジャマイカ戦です。この試合では、いい結果を出すことができましたが、どのような準備をして結果を出すことができたか、ご説明しましょう。

 あの時は水曜日が試合でしたので、月曜日に最初の練習をしました。ジャマイカの中盤のもろさを考えて、できるだけ中盤の高い位置でボールを奪って、フリーのサイドをうまく使って、できるだけ手数をかけずにゴールに近づく。前もってチームで確認していたことを、選手たちは見事に実行してくれました。これは、監督の意図を選手たちが素早く理解してくれた結果であり、私はこの時、お互いの信頼関係を実感しました。いい成績を残すためには、選手ができるだけ多くの情報を吸収し、グラウンドで実践することが大切です。

 月曜日の紅白ゲームでは、技術スタッフの方々に、そのゲームの様子を上からビデオで撮影してもらいました。それをもとに、試合前日と当日のミーティングに臨んだわけですが、それをご覧いただきたいと思います。

<ビデオ:日本代表練習風景>

 私が一番気になったのは、最終ラインがフラットになっている時間帯が非常に長いということでした。これは、私は絶対にしてほしくないことです。一発のスルーパス、あるいは高い個人技からの突破によって、(ディフェンスが)取り残されてしまう。ここではカバーリングが必要となります。実際のゲームで、4人が一気に取り残されてしまうようなことがあってはならない。

 先ほどのロベルト・カルロスとカフーの話でも出てきましたが、サイドを埋めるとともに、センターバックのカバーが必要です。この選手ですね。ここでスイッチして、もっとこの位置まで絞っていなければならない。これでは、センターバックのカバーリングにはなっていません。本来ならば、練習でやればいいのですが、時間がなかなかありませんでした。ですから選手には、ビジュアル的にイメージしてもらって、それから実際にプレーさせる、という練習方法になりました。

 次の場面ですが、これは(相手の)サイドからの攻撃に対して、カバーリングがなされていなかった。その結果、この選手がフリーになっていますね。つまり、その横にいたサイドバックの選手が、しっかりとマークについて、その横のセンターバックがカバーするという動きがなかったということです。ここで、最初に中をしっかり絞っておかなければなりません。そうしておけば、ここで大きなサイドチェンジをされても、ゴールに近い選手を抑えていれば危険性は少ないわけです。

 ほかに気を付けたのが、中盤の4人が非常に攻撃的な4人である、ということでした。中盤の4人が、ボールのラインから逸脱して前にいってしまうことが懸念されました。この形で、4人がボールのラインより前に行ってしまってはいけません。少なくとも1人がこのスペース(ボランチの裏)を消していれば、この(相手)選手がフリーでボールを受けて速攻を食らうことはないわけです。ですから、必ず「つるべの動き」をすることによって、このスペースが消せる。近代サッカーにおいて、やはりボランチの裏のスペースは一番危険なポイントですね。(中盤の)1枚が中にいることによって、この攻撃は生まれなかったということです。

 ネガティブな部分だけではなく、いい形もお見せしましょう。ここでボールを取りました。相手の守備のバランスも悪いのですが、非常にシンプルで速いパスによって、1本目、2本目、3本目でゴール。非常にいいパターンです。これからも、こういったビジュアル的なもので、いいイメージをつかんだり、修正することに使っていきたいと考えています。こういった小さな努力が、いずれは大きな結果を生むことでしょう。

 ジャマイカ戦では2日間しか練習の時間がなく、アルゼンチン戦では家族の不幸がありました。(代表を指揮するようになって)非常に短い時間ではありますが、それでも私は、選手たちの能力の高さ、吸収の早さを感じました。技術的、戦術的な理解度の高さをチーム力と上手く結びつけることによって、日本代表は素晴らしい成績を残すだろうと確信しました。また、若い選手たちも急速な進歩を見せ、技術的なものが顕著に高くなっています。とはいえ、それで良しということではなくて、常に前に向かって1日1日を大切にしていきたい。そして、勝利にこだわる精神力を培ってほしい。勝つためには、通常の力を出すだけではなく、プラスアルファが必要だと思います。このプラスアルファを導き出すことによって、今の若い選手たちの能力が倍増すると考えています。

 

■帰化選手を登用したい

 これから将来、起こり得る問題について少し触れます。

 今回のワールドカップで日本はベスト16でした。みなさんが「非常に良い成績だ」と感動するのはとても大切なことなんですが、この結果はすでに過去のものであるという頭の切り換えが必要だと思います。そして、これよりさらに良い成績を収めるためには、その前に予選を確実に突破することが重要です。対戦相手にとって日本は、力を付けている、そして結果を出している。彼らは日本、韓国に絶対に勝とうという気持ちで予選に臨んでくると思います。日本は、それに打ち勝たなければなりません。

 ここでアジアカップの映像を。

<ビデオ:2000年アジアカップ>

 このように日本は必ずマークされる。それに打ち勝って、日本は敵地(レバノン)でアジアカップのタイトルを勝ち取りました。これは非常に価値あることです。この時の代表チームスタッフの努力があってこそ、こうした結果が生まれたんだと思います。

 勝てば勝つほど、相手からマークをされるというのは当然ですが、アジアカップの試合の時に気付いたことがひとつありました。パレスチナとの試合の中で、パレスチナに帰化選手が多いという情報がありました(注:パレスチナはアジアカップに出場していない。また、外国人帰化選手も存在しない。対戦はしていないが、レバノンの誤りか)。これはアジアだけの話ではないのですが、サッカーに力を入れている国では、帰化選手の重要性が注目されています。今後、(ワールドカップの)予選を勝ち抜くために(日本も)帰化選手を重視し、その持っている力を生かすために彼らを登用していくことが考えられます。

 アジアにおいて日本と韓国は、南米におけるブラジル、アルゼンチンのような存在になっていくことでしょう。ということは、そのチームに対して相手は必死になる。このことは、私が考える以上に、選手が危機感を持つべきだと思います。予選は本大会より難しい。まず、予選に勝たなければ、本大会には行けないわけです。なかなか言葉では理解してもらえないかもしれませんが、それを感じ取ってほしいと思います。

 この前のジャマイカ戦の後、ジャマイカの選手たちは日本に引き分けたことで、ワールドカップに勝ったような勢いで喜んでいました。アジアのチームは、そういった勢いで戦いに挑んでくるのです。ですから、2006年大会の結果を期待する前に、まず予選を突破しなければなりません。

 そのためには、帰化選手の登用(が考えられます)。

<ビデオ:ラモス、呂比須、三都主>

 今までも歴代日本代表で、何人かの帰化選手が活躍しました。彼らがいかに日本サッカーに貢献してきたか、あるいは貢献しているか。特にラモスは、非常に長い間、日本に滞在して、日本の国籍を取得し、力の限り日本のために戦ってくれました。みなさんもご存じのように、もう一歩のところで(ワールドカップ)本大会まで行けるという時にあの悲劇(93年ドーハ)が起きましたが、その中で彼は中心となって頑張ってくれました。私は敬意を表すとともに、彼のような帰化選手の力を生かしたいと思います。

 呂比須も98年の予選で活躍して、本大会でも良い動きを見せてくれました。現在ではアレックス、三都主ですね。彼の活躍は、私が説明するまでもないでしょう。日本サッカーの進歩の中で、彼らの存在を忘れてはならないと思います。そしてそれ(帰化選手の登用)は、海外でも起こっているわけです。

 特にアジアで、日本の相手となる国々も、こうした質のいい帰化選手がいることを想定すると、先ほど述べたように、相当な気持ちの強さで臨まなければならないと思います。そのような厳しい戦いの中で勝ち残った代表が、本大会を戦うということは、アジアが世界にアピールすることにつながると考えます。

 今回、AFCの方々の努力によって、本大会の出場枠も増えましたし、こういった地道な努力が、世界の中でのアジアの確固たる地位の確保に結び付いていると思います。私が常々考えているのは、皆さん一人ひとりの情熱がひとつになった時、ものすごく大きな結果を生むということです。その意味からも、気を抜くことなくひとつでも上のポジションを目指しながら、1日1日を上手く使って、代表のために、日本サッカーのために努力していただきたいと思います。

 私は攻撃的なサッカーが好きで、かつ仕事に真面目に取り組む人間です。結果は、その努力に必ず付いてくるという哲学をもっています。ですから、同じような哲学を若い皆さんに、すべてのサッカーにかかわるみなさんに持っていただき、自分の才能と気持ちで(若い選手を)指導していただきたいと思います。

 

■しっかりと責任をもって職務を遂行する

 最後に、私が日本代表で働けるようにご協力いただいたみなさんに、心から感謝します。それから、日本で11年間仕事をさせていただいたこと――最初は現役選手、それから外からの協力という形でしたが、それを評価していただいての代表監督だと思います。私が今回日本代表のお手伝いをさせていただけるのは、知識や能力ではなく、予選の難しさ、あるいは本大会を戦うポイントといったものを、今までの経験から日本のために生かすことができるからだと思っています。今まで、ひとつのクラブでやってきたことを、今度は日本のために、みなさんのために全力を挙げて、みなさんの期待を裏切らないように、力の限り戦っていきたいと思います。ありがとうございました。

 

<質疑応答>

代表チームは活動日数が少なく、そのためにやり慣れたポジションで選手を使うというお話でしたが、ではなぜJリーグで3バックを採用しているチームが多いのに、代表では4バックを採用するのでし蛯、か。レアル・マドリーやマンチェスター・ユナイテッドが4バックだからというのは、説得力が少ないように思いますが

 私の考えでは、非常にバランスの取れた4バックというシステムを貫き通したい。ただし、なかなか左サイドバックが見つからないという状況もありますので、結果が出ないということであれば、3バックに移行することもあるかもしれません。少なくとも先日の2試合から、服部、中西でも当分は問題ないと思いますが……。これはあくまでも、選手たちがどういう形で機能するかを考慮しながらの変更はあり得る、ということです。しかし私は、先日の中西、服部両選手の動きには、十分に満足しています。先々には、そう言った可能性はあるかもしれませんが。

これから先、4バックの左サイドバックに適応できる選手が出てくるとお考えですか?

 そのポジションでいい活躍をした選手が引退した後に、すぐにまたいい選手が出てくる時もありますし、長く時間がかかることもあります。(左サイドは)特殊なポジションですが、今の日本の状況であれば、そう時間はかからないだろうと信じています。

この前のレクチャーで、トルシエ監督のベーシックコンセプトを5つ挙げていただいたのですが(コミュニケーション、ウェーブ、オートマティズム、フラットスリー、3メートルコンセプト)、ジーコ監督のコンセプトがあれば、教えていただきたいのですが

 トルシエ監督が挙げたコンセプトは、非常に良いものだったと思います。ただし非常に難しいのは、(そうしたコンセプトを)机上で終わらせないことです。これをいかに選手に理解させ、いかに結果を出すか、ということです。それは監督の手腕、メソッド(方法)もありますし、これから徐々に選手に理解してもらうわけですが、私のやり方はほかの監督と違うのかもしれません。今、自分のコンセプトと言えるのは「献身」ですね。選手1人1人が置かれている状況の中で、しっかりと責任をもって職務を遂行するということ。これもひとつのコンセプトなのかもしれません。

日本は、精神面の弱さが目立つということですが、その点に関して、中学生、高校生の年代で取り組んでいくことはありますか?

 特にその年代において、心理的に不安定であるというのは当然だと思います。いきなり結果を出すというのは、難しいことかもしれません。ただし18歳を過ぎた時点で、サッカーを真剣に職業として選んだ時に、少しでもそういうことが意識的に改善されれば、欠点をプロとして克服するのは容易だと思います。その年代の子供たちに対して、そう強く要求しないことが重要かもしれませんが、意識させることは大切だと思います。そういった心理面よりも、むしろ自由にプレーさせながら、クリエーティブなプレーに結び付けたり、テクニカルな部分を強化することを優先すべきだと思います。

 

 

 

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