科学的サッカーのススメ

北京行きは大丈夫?U−21代表の課題

 

 9月にドーハを訪れているし、その時の話と合わせてアジア大会をレポートしようと気合を入れていたのだが、あっさり2次リーグ敗退でとても困惑した。

 アジア大会での試合を中心に、なぜ負けたのかを分析しても良かったのだが、そもそもU−23にオーバーエージ可という、オリンピックと同じレギュレーションのアジア大会にU−21のメンバーで臨んだのだから、勝敗よりは2月から始まる五輪予選を見据えての経験の蓄積が主眼なのは明らかゆえ、これを深掘りしても益は少ないだろう。という訳で、前回のU−19に引き続いて韓国戦になるが、アジア大会の前の国立で行われたU−21韓国戦(11月21日)について、レポートしてみたい。アジア大会の結果もあって、トーンはどうしてもやや辛口とならざるを得ないので、そこはご容赦いただきたい。

 

<国際親善試合U−21日中韓3カ国対抗戦:日本1−1韓国>◇11月21日◇国立

 

★サイドの役目

 これは前回も書いたことであるが、サイドプレーヤーがアタッカーとしてはワークしてなかった点はU−21のカテゴリーであっても同様であった。断っておくが、水野のパフォーマンスが悪かった訳ではない。むしろ、この試合を見ていた人の印象に最も残るプレーヤーは間違いなく水野ではなかっただろうか。サイドを鋭くえぐっての速いクロスは韓国相手には極めて有効で、増田のゴールもこのクロスから生まれている。

 突破も良かったし、クロスも正確だった。だが、1トップという布陣における前めのサイドプレーヤーとしては、クロスだけでは物足りない。

 1トップと2トップの違いは、当たり前だが常に前線に張っている選手が1人か2人かという差である。当然、2人いるよりは1人の方がゴールの確率は減るから、その分だけ両サイドや、中盤の選手が前で、かつペナルティーエリアの近くでプレーしないと単なる守備的な布陣になってしまう。この点、水野は何回か真ん中へとチャレンジした時はあったが、基本的に外のペナルティーエリア横のスペースでプレーをしていた。そうすると、中央の選手が足りなくなるから、平山1人がクロスに競って、サポートがいないという状況が続出することになる。これはもちろん水野だけが悪いのではなく、水野がサイドに開いたら、逆サイドの苔口は中に入って、2トップの片方のようにプレーしないといけないし、逆に家永や苔口が左サイドを突破したら、水野は中に入って数的優位を作らないといけない。

 苔口もサイドに開いていることが多かったが、このような中央の人数を確保するという観点では、水野も褒められたものではなかった。また、単に中央に入れば良いものではなく、中盤でボールをもらったら、いったん中に絞って、右のスペースを開け、そこに中村北斗あたりが走り込み、自分はボールを預けてペナルティーエリアの前まで進出するとか、こういった後ろの選手の攻め上がりを引き出す動きも乏しかった。要は、今回の水野は、前めの右サイドにべったりと張り付いて、そこでのパフォーマンスは素晴らしかったが、1トップとしては、もうひと工夫が必要ということである。

 この点は、もちろん反町監督も気が付いていて、途中でカレンを入れて2トップにしたのは、水野のパフォーマンスを生かすには、2トップで真ん中の人数を増やした方がいいという判断があったからだろう。この交代によって、前線は非常に活気付き、マークが分散することによって、ペナルティーエリア近くでの日本の攻撃は明らかに良くなった。水野からクロスが上がれば2人が必ず競るし、ルーズボールを拾うプレーヤーもいる。これが韓国守備陣を非常に混乱に陥れていた。増田のゴールはこの文脈から生まれたものであろう。

 このポイントは、個人の得意なプレーとチーム戦術の中で求められているプレーとは違うとまとめることも出来るし、逆に個人の得意なプレーを活かせる人選、戦術ではなかった、と考えることも出来る。まだ若いカテゴリーだから、前者のみでまとめるのは少々酷かもしれない。そうすると、もう少しカレンの投入は早くても良かったかと思う次第である。

 また、両サイドがサイドに張りすぎというのもさながら、ボランチの攻め上がりがゴールシーン前後以外はあまり見られなかったことも指摘しておきたい。

 このポイントを反町監督は「このチームはビルドアップに課題を抱えている」と表現していたが、確かに中盤のダイナモ的な選手に乏しい印象を受けた。この日の布陣は、4−3−3に近く、ドイツW杯時のポルトガル代表を思い起こさせたが、サイドに張りっぱなしのフィーゴにクリスティアーノ・ロナウドに加えて、運動量に乏しく、攻め上がってこないデコでは攻撃に迫力が出ない。

 

★マーカー以外の選手の動き

 前半ロスタイムの韓国は25番(FW梁東?)のゴールは豪快な内容だったが、これは日本のミスが生んだゴールとも言える内容だった。25番は高さと足技を兼ね備えた、なかなか良いFWだったので、清水で開幕からレギュラーの青山がマンマークで付いていたが、このゴールの瞬間は、日本の他の選手が青山の進路を妨害していて、付き切れない所を突破されてしまっていた。

 キープ力に自信のある選手であれば、マークを引き連れた上で、あえて敵選手に寄って突破するというのは、珍しいオプションではない。主な狙いは、マークともう1人の敵を近づけることで、敵を密集させて逆サイドにスペースを作ることだが、今回のように敵の2人がお見合いしたり、ぶつかったりという僥倖(ぎょうこう)も起こり得る。ゾーンで守っているのであれば、マークを受け渡す所だったかも知れないが、背番号は見えなかったので誰かは分からないものの、この妨害した日本選手は、ボールに行くでも、コースを切るでも、カバーリングするでもなく、実に中途半端なプレーで、あっさりと25番に突破されてしまっていた。青山は25番のシュートコースを切るように内側を併走していたのだが、この内側にこの選手がいたため、これを避けて回り込む一瞬の間、25番はフリーになったのである。まだマンツーマンの守備ポリシーの中で、余っている選手の動きが熟成されていないように感じられた。

 守備については、ボランチのポジショニングもイマイチで、韓国の波状攻撃を受ける時は、必ずボランチがラインを上げすぎていて、最終ラインとボランチの間のスペースを使われていたし、逆にラインを下げている時は、簡単に最終ラインと一体化してしまって、本来の「外堀」の役目を果たせていなかった。全体に、守備の熟成度はいまひとつであると言えるだろう。

 

★平山はいつA代表に上がるのか

 あまり特定の個人に注目した内容にはしていない当コラムだが、このカテゴリーではどうしても平山の動向は気にかかる。今回の平山は、まだまだ本調子では無いものの、前回の中国戦よりはずっと体はキレていた様に思えた。クロスに対しての反応や、くさびのプレー、あるいは1人でこじ開けてのシュートなどのプレーにおいても、とにかくゴールファーストでシンプルにシュートに向けてプレーを選択するマインドにおいても、ゴールは挙げられなかったが、1トップとしては及第点のパフォーマンスだったように思う。久保が怪我がちだったこともあり、なかなか日本代表で1トップらしい1トップを見られなかったが、今回の平山を見て、やっぱりセンターフォワードってのはこうでないとな、とあらためて日本のFW欠乏症に思いを馳(は)せてしまった。

 平山が復調してくると、ついついA代表にいつ上がるのか気になってしまうが、これについてはまだ時期尚早かもしれない。平山は注目選手だけあって、その言動に触れる機会も多い。それを追っていると、これは僕の仕事上の経験ゆえ感じるのかもしれないが、どうしても平山自身のハートの部分は気にせざるを得ない。

 彼の身体能力や、センターフォワードとしてのマインドは疑いようがないが、筑波大学からオランダを経たそのキャリアは、ユニークで果断ではあるが、どちらも自分の選んだことをコンプリートしていない点が非常に気になるのである。人の履歴書をよく見る仕事をしているが、選んだ仕事をコンプリートしているかどうかは重要なポイントだ。

 また、優秀で行動力もあり、自分で判断できるが、なぜか実績に乏しいという人は、履歴書上以外でも普段の仕事において出会うことがある。この種のタイプの人には、優秀さに甘えてあれもこれもとお願いするよりは、1つのことに責任を持って、集中して貰った方がラーニングが速いことが多い。優秀であるがゆえに、組織の便利屋的存在になってしまうと、仕事へのオーナーシップというものが、なかなか体感・習得されないのである。また、一つの反作用として、あれもこれもと場当たり的な仕事の振られ方をすると、本人に実績が出ないのは人事のせい等の被害者意識の様なものが醸成する可能性もある。

 僕は平山のパーソナリティーを直接は知らないが、報道で見聞きする範囲での言動を聞いていると、組織人事におけるそんなシチュエーションと同じかなと想像する。これは部外者としての勝手な意見だし、本人が聞いたら余計なお世話だと思うかもしれないが、いまA代表に上がって、A代表とオリンピック代表を往復すると、どちらもまた中途半端になる可能性がある。それならば、平山の才能は疑いない所であるから、この五輪代表は平山のチームであると、本人にもコミットして貰って、どこまで上に行けるか一緒にチャレンジする、という位の長期的視野で育成し、その後にA代表に上げた方が、経験としてはいいものを積めるのではないだろうか。

 未熟だから成熟しろというのは難しい。未熟ゆえにどう成熟させ、ポテンシャルを最大限実現させるかを考えるのが大人の差配だと思うし、それが人材育成の醍醐味である。育成には早く高いレベルに触れさせるのが定石とはいえ、じっくりやらせてみるというのもケースによっては有り得ると思う。

 

★今後の展望

 2月から五輪予選が始まる。さすがに1次予選で負けるとは思わないが、今のままだと最終予選の突破は楽観視できない。今回挙げたような、前線の人数とか、守備の基礎的な動きとかは、早急に解決すべき問題である。

 また、これらをクリアした後には、U−19世代とどう融合するか、というのが重要テーマになろう。U−19との融合は、2月に早速行われるかは分からないが、中村北斗が欠けた右サイドバックに内田篤人、中盤の真ん中でプレーができて、走ってリズムを作れる選手として柏木陽介、1トップの時の前めのサイドや、3トップの両翼でもプレーできる梅崎司と、U−21のミッシングピースが下のカテゴリーにいる。U−19は、定石としては夏のU−20W杯まではそちらに集中させるということだろうが、楽しみな若手が多く、A代表に飛び級している選手もいるだけに、融合したチームを早く見てみたいものである。

 なお、余談になるが、前回のU−19のコラムに対し、多数のご意見を頂いた。どれも非常に質が高く、面白く読ませていただいた。せっかくコメント欄をオープンにさせていただいているので、飛び入りして意見交換をしたいのは山々なれど、肝心の本稿の方を書くのにアップアップなので、そこは大目に見ていただければ幸いである。

 あと、このような形でコラムを書くのと、コメント欄で掲示板の流れの中でコメントするのとでは、書き方も内容も異なってくる。流れの中で適切なコメントというのをどう書いたものかと、皆さんのコメントを拝見しつつ、勉強させて貰っている次第である。引き続き、お付き合いの方、よろしくお願い致したい。

(文=市川雄介 氏)

http://blog.nikkansports.com/soccer/ichikawa/archives/2006/12/21.html#more

 

 

 

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