サッカースタイルは少年時代に作られる 欧州のトップクラブが目指すもの

■クラブのアイデンティティーを教え込まれる育成世代

 スペインリーグは冬休みに入ったが、今日(12月29日)から早くも練習を再開したチームが多い。冬の移籍市場でも積極的な最下位のエスパニョルは、1月1日にも練習を予定しているそうだ。たった2勝、最下位独走中のチームだから、元旦だからと「って休んではいられない。元パリ・サンジェルマン、元アスレチック・ビルバオ監督のルイス・フェルナンデスが檄(げき)を飛ばし、クリスマス気分を吹き飛ばしている。リーグ戦は新年4日に再開される。

 そんな時、興味深い試合の数々を楽しむことができた。

 インテル対バルセロナ、アトレチコ・マドリー対アヤックス、パリ・サンジェルマン対バルセロナ、バイヤー・レバークーゼン対レアル・ソシエダ . . . 。チャンピオンズリーグではない。スペインで行われた少年サッカー(7人制サッカー)のチャンピオンシップだ。

 集まったチームは、バルセロナ、レアル・マドリー、レアル・ソシエダ、アトレチコ・マドリー、ラス・パルマス、パリ・サンジェルマン、アヤックス、インテル、バイヤー・レバークーゼン、マンチェスター・ユナイテッドの10チーム。いずれも11歳〜12歳までの「アレビン」と呼ばれるカテゴリーの少年たちで、私が監督している子供たちと同年代だ。

 アヤックスやバルセロナ、マンチェスター・Uの育成システムは、つとに知られている。

 タレントを持った子供たちを集め、下部チームからトップチーム、果ては代表チームにいたるまで一貫した、言わばそのクラブ(国)アイデンティティーとなるサッカースタイルの基礎を教え込むのだという。スペインだけでなく、ドイツ、イタリア、オランダ、イギリスのトップクラブの育成世代で、どんなサッカーが行われているのか. . . 。

  分析に入る前に、ごく簡単に7人制サッカーの紹介をしておこう。

 グラウンドの大きさは11人制サッカーの半分。よってゴールもペナルティーエリアもミニサイズ。ペナルティーエリアの外にもう1つゴールラインから13メートルのエリアがあり、この13メートルエリア内でのみオフサイドが適用される。

 オフサイドになりにくくしているのは、子供にスペースを与えるためだ。「コンパクトなサッカーの弊害 スペインと日本の将来」でも書いたが、コンパクトスペースでのサッカーはこの年代では育成を阻害する。おそらく、そうした配慮から生まれたルールだろう。

 

■システムが目を引いたアヤックス、個人技のPSG、戦術的なR・ソシエダ

 さて、主なチームのシステム、戦い方、目に付いた点を拾っていこう。

 予選落ちしたマンチェスター・ユナイテッドとレアル・マドリーについては、ダイジェスト以外観戦する機会が無かった。

 すべての試合に大敗したマンチェスターは、解説者の話によると、11歳の子供たちが大半で(この年代の1歳違いは大きい!)、自由にボールを扱わせる方針だったようだ。毎年、大会に呼ばれては予選落ちしているが、気に留めず年少の子供たちを送り込んでくる。おそらく、技術指導を中心とした育成方針なんだろう、と予想する。一方、これまで6回優勝のレアル・マドリーのサッカーは毎年見ている。バルセロナのサッカーと大差ないから、その項目を参考にしてほしい。

 まずアヤックスから。

 システムが面白い。「3−1−2」だ。普通、7人制サッカーのシステムは「3−2−1」か「2−3−1」で、いずれもフォワードは1人。大胆にもフォワード2人を置くのはさすがアヤックス。 中盤が「1」と薄いので、ディフェンスライン「3」のうち両サイドの2人が攻撃参加。攻撃時は「1−3−2」の形も見られた。

 キーパーからのボール出しは必ずスロー。両サイドバックが左右に大きく開き、ボールをもらう。プレッシャーをかけられると、キーパーにもどんどんバックパスを戻す。バックパスのミスから失点しそうになっても、ロングキックには逃げない。後ろからボールを回し前へつなげていくという精神は、トップチームと共通だ。キーパーがあれほどボール回しに参加するチームは、少年レベルでもプロレベルでもほとんど無い。足技と状況判断力に優れたディフェンダー、キーパーを育てるには最適だろうし、パス回しの技術と戦術は確実に身に付くだろう。が、勝負にこだわるとリスキーな戦い方であることは疑いなく、予選で敗退。アヤックスの監督は結果など気にしていないだろうが. . . 。

  パリ・サンジェルマンは、最も多くのチームが使う「2−3−1」を採用。

 が、戦略・戦術的には見るべきものがなかった。とにかく全員がドリブルで突っかける。パスを回す意識よりも個人テクニックでの突破を狙わせていた。むろん、これは無策ではなく、チームの方針なのだろう。ティエリ・アンリばりの長身フォワードが見せた繊細な足技と柔軟な身のこなしは目を引いたが、彼にボールが渡るまでのプロセスは単純。インテルと並んで、最もロングボールを使っていたチームでもある。

  3位に入ったレアル・ソシエダは、パリ・サンジェルマンよりも戦略・戦術的だった。

 ここもシステムは「2−3−1」。長身フォワードを前線に張らせている点も似ている。が、このチームはとにかく走る。ボールホルダーとパスの受け手になる選手を、集団で追い込んでいく。そうして奪ったボールから速いカウンターに出る――これが格上に対する戦い方。一方、格下相手にはボールを支配し、ゆっくり攻撃を組み立てるというスペCン勢に共通するスタイルになる。

 プレッシャーとカウンター――これは言うまでもなくトップチームの戦い方と同じである。以前、アスレチック・ビルバオの少年チームの戦い方を紹介したが、バスク地方のチームであるレアル・ソシエダはやはり、地域性を引き継いでいると言える。

 

■だれもが優勝候補に推したレバークーゼン

 レバークーゼンのサッカーは驚きだった。

 ドイツというとフィジカルを生かした縦への意識が強いサッカーをイメージしていたが、レバークーゼンのパス回しの華麗なこと! 攻撃では必ずサイドへ展開しセンタリングからフィニッシュするプロセスは、スペインのチームを思わせる。

 いや、実際、監督が描いているプランは、優勝したバルセロナとまったく同じと言ってよかった――細かなパス回しと大きな展開を交え、相手を左右に揺さぶってゴールする。ボール支配が攻撃と守備のかなめとなる――。システムフ「2−3−1」が唯一バルセロナとの違いだ。

 最優秀選手に選ばれたデニス・クロールは、バラックのように長身ながらテニックもピカイチで、周りの選手を動かしシュートも打てる。そのほかにもテクニシャンがそろっており、だれが出ても同じスタイルで戦える、攻撃面での戦略・戦術理解度もナンバーワンだった。

 解説者やコメンテーター、大会関係者ら、だれもが優勝候補に推した、このレバークーゼンが4位に終わったのは、インテルが立ちはだかったからだ。

 優勝したバルセロナは、恥ずかしながら言えば、私が目指しているのに最も近い戦い方をするチームだった。

 システムは「3−2−1」。このシステムは、両サイドバックが開いてキーパーからの球出しを容易にするメリットがある反面、中盤で数的不利になるデメリットがある。この欠点はディフェンスラインからの攻撃・守備参加で解決できるが、そのためには速やかな攻守の切り替えが必要。私のチームが課題とするこの点を、むろんバルセロナはクリアしていた。

 レバークーゼンのところで紹介した「ボールを支配し、サイドを崩すサッカー」は、バルセロナやレアル・マドリーだけではなく、スペインのアイデンティティーと言っていい。

 少年サッカーでもプロでも、解説者やサッカー関係者が「いいサッカーをする」と評するのは、必ずこういうプレースタイルのことだ。コンパクトスペースであれ、ワイドなスペースであれ、ボールをつなぎ、ゴールを狙う姿勢を持ち続けるサッカーは、間違いなく賞賛される。

 そして、その逆のサッカーは褒められることはない。

 

■ミニ版のカテナチオを徹底した「大人のチーム」インテル

 インテルのことを書こう。

 マンチェスターとは逆に、体の大きな子ばかりを集めたこのイタリアのチームは、最も「大人のチーム」だった。2位に終わったが、優勝したバルセロナを予選で1−0と破り、準決勝で優勝候補筆頭のレバークーゼンに3−1と大勝していた。

 「大人のチーム」とは、試合の流れや結果を読み、システムを「3−2−1」、「3−3」、「4−2」と変える柔軟性があったということ。子供ならだれでも大好きなボール支配を最初からあきらめ、後ろに引いてカウンターを狙う、辛抱強さがあったということ。レバークーゼンのデニス・クロールを封じ込めるだけが仕事の、驚異的な12歳のマンツーマン・マーカーがいたということだ。

 インテルのやっていたことはミニ版のカテナチオだった。

 3人、ときには4人が並ぶラインディフェンス、次々と守りの選手が出てくる“忠実過ぎる”カバーリング、そしてチャンスと見るや2、3人で飛び出す爆発的なカウンター。大きな子供ばかりをそろえ、守りでは空中戦に強く、攻撃では小さい子を弾き飛ばしながら突進する。攻めあぐね、前がかりになった相手チームは次々とカウンターのえじきになった。特に、先制するとインテルは後ろに引き、ボールに興味を示さなくなった。 バルセロナが優勝できたのも、バルセロナが先制したからだ。

 このサッカーはまさにトップチームや代表チームに通じるものだ。しかし、青年やプロならともかく、12歳のサッカーがこれでいいのだろうか? 

 マンチェスターも、アヤックスも、パリ・サンジェルマンも、レバークーゼンも、バルセロナも、システムや戦略・戦術の違いはあれ、ポゼッションサッカーをしていた。インテルだけがわが道を歩んでいる。これがインテルだけの傾向なのか、それともイタリア少年サッカー全体に共通するものか、在住のサッカー関係者に聞いてみたいものだ。

 いずれにせよ、その国や地域のアイデンティティーは、小学生レベルですでに注入されているのが面白い。有力クラブがスタイルを築き、それを指導者が伝え、マスメディアも広報に貢献する。在スペイン10年目の私の頭にもインプットされ、子供たちに教える側に回っている。

 「伝統」とはそういうものだろうか。

 

木村浩嗣/Hirotsugu KIMURA

スペイン・サラマンカ在住。98年、99年とスペイン・サッカー連盟のコーチライセンスを2年連続で取得。レアル・マドリーやバルセロナのベンチ入りもできるセミプロまでの資格を得る。現在は、地元のサッカー学校「ナベガ」で少年チームを指導中。スペイン・サッカー連盟カスティージャ・レオン州監督委員会員

 

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/spain/column/200312/1230kimu_01.html  03/12/30

 

 

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