“プリンスリーグ”理想と現実

2004年5月14日

■2年目を迎えたプリンスリーグ

「非常に厳しい状態。何も改善されていない。結果的に勝てただけ」

 2年目を迎えたJFAプリンスリーグU−18。そこでの初勝利を得たというのに、武南高校(埼玉)を率いる大山照人監督の口から出てきたのは厳しい言葉ばかりであった。しかし、それも無理のないところかもしれない。武南がこの大会で挙げた戦績は惨憺(さんたん)たるものだった。残り2試合となったところで、1勝4敗2分け9得点23失点。名門の誇りは痛く傷つけられていた。武南はプリンスリーグの前身となった関東スーパーリーグを戦った経験を持っていたが、初めて臨む「公式のリーグ戦」はそれとは別次元のものであったようだ。

 プリンスリーグは「ノックアウト方式ばかりの高校サッカーに風穴を空けんとする試みである」とされている。公式には、2002年ワールドカップを経て財政的余裕の生まれた日本サッカー協会が主導する形で実現したわけだが、実際は90年代半ばから急速に広まった各地域の有志が起こした小さな試みの集積という理解が適当だろう。

 比較的よく知られている関東スーパーリーグや中日本スーパーリーグといった、強豪チームが私的に催していたリーグ戦だけでなく、東京都文京区と豊島区のDUOリーグなど小規模なリーグ戦の試みも各地で勃興(ぼっこう)していた。そこで説かれたのは「近いレベルのもの同士が争う」ことによるゲームとしての楽しみの増加と、レベルアップへの効用であった。そして現在、プリンスリーグは全国9地域で開催されている。その下に位置するべき都道府県リーグの多くはまだ未整備だが、来年以降はこちらの環境も整っていく見込みである。

 観客の立場からすると、プリンスリーグは非常に楽しい大会である。毎週、高水準の試合が芝のグラウンドで繰り広げられ、先の見えない順位争いが全国9地域で展開されている。原則として観戦は無料ということもあって、「行って損した!」という気持ちになる可能性は少ない。従来、めったに顔を合わせることのなかった高校勢とクラブチームが真っ向勝負をする舞台となっているのも興味深いし、意義深い。第一試合は午前中にあることが多いので、ちょっとした寄り道気分でJリーグとハシゴする日程を組むことも容易だ。この年代のサッカーに少しでも興味をお持ちの方であれば、全国どこででも開催されているので、ぜひ一度足を運んでいただきたいと思う。

 

■表裏一体に存在するプリンスリーグの功罪

 さて、このプリンスリーグだが、問題点もないわけではない。

「負けても負けても次の試合がある」というのはよく言われるリーグ戦のメリットである。しかし、長所と短所は常に裏表なわけで、この「メリット」が必ずしも選手やチームにとって(少なくとも主観的には)ポジティブに機能しないこともある。その典型例が冒頭の武南高校といえるだろう。

 冬の選手権を筆頭に高校サッカーは基本的に「負けたら終わり」の世界である。その中で確立されていった高校サッカーの方法論というのは根本的にプリンスリーグの考え方と相容れない面があるのは否定できない。「負けたら終わり」の「負け」が早期の負けであればあるほど、次の大会への準備期間が長くなるのが従来型の高校サッカーであった。この期間を使って「じっくり修正していく時間があった」(大山監督)わけだが、週1〜2回のペースで試合が続くプリンスリーグのシステムでは「それをやったら次のゲームができない」のである。

 負けて自信を失い、体力的なリカバリーをしただけで次の試合に臨む。しかも、そこで待っているのは、常に高いレベルの相手である。自信を失った選手たちは、再び敗れて自信を失い、そのことがさらなる敗北を生むという“負のスパイラル”へと陥ってしまうのだ。それはチームからリズムと活力を確実に奪っていく。これは今年の武南に限らず、昨年を含めて下位に沈んでいった多くのチームに見られた現象である。

 早い話が、多くのチームがリーグ戦を戦い抜くための「方法論」を持ち合わせていない。これは選手と監督の両方に関して言えることだ。歴戦の名将たる武南の大山照人からして、迷いを口にし、「もし来年出られたら、もう少しうまくやれると思う」と語るほどだ。もっと経験の乏しい監督ならどうなるだろう――

 しかし逆に言えば、ここにこそプリンスリーグの存在意義が見えてくるようにも思われる。

「日本人選手はリーグ戦の戦い方が下手である」という指摘は、Jリーグ開幕以降に多方面から言われたが、その縮図と原型がまさしくここにあるのではないか。この指摘は、漠然と多くの人が思っていたことであるが、実際に全国規模で本格的なリーグ戦を展開することで見えてきた、さまざまな事象によってあらためて裏付けられた。もちろん、プリンスリーグを続けていけばこの傾向が劇的に改善されるだろう、などと安易なことを言う気はない。ただ、こういったことの積み重ねがそれを改善していく可能性を秘めていることも否定できないだろう。

 

■ノックアウト方式より選手を追い込むリーグ戦

 プリンスリーグの問題点として指摘されるのは、先に述べた短いインターバルで試合を重ねることでもたらされる、精神面での負担だけではない。当たり前の話だが、このように連続して試合が続くのは、肉体的にも相当な負担である。

「連戦、連戦で日程的には相当きつい」と語ったのは、G大阪ユースの島田貴裕監督。そしてそれは、ほかの指導者にも軒並み共通した見解であった。

 他方、「クラブチームは、まだいいのではないか」と指摘したのは、浦和ユースの菅野将晃監督である。私が取材に訪れたのは帝京第三(山梨)との試合だったが、対戦相手の帝京第三は前日に関東大会の県予選を戦い、その足で埼玉へ遠征してきていた。逆に関東のJユースは、同時期に行われているクラブユースの公式大会を完全シードされており、参加すらしていない。プリンスリーグの日程は、土・日での2連戦を当然として組んでいる地域も多く、出場する高校チームに配慮する地域が増えたのも事実だが、それでも試合数は大きく増加しているのが現状だ。

 また、あまり知られてないことだが、従来、春から夏に行われる高校サッカーというのは35分ハーフが主流であった(40分ハーフの県もある)。国体、インターハイが35分ハーフなので、理に適った選択だともいえる。体力的に未熟な選手も多く、気温も総じて高いこの季節に行われる試合の時間を削るという判断もあったのだろう。これに対して、プリンスリーグは原則として45分ハーフで行われている。ユース年代で45分ハーフとなると従来は高円宮杯かJユースカップくらいしかなかった。そういった意味でも「定期的に45分ハーフの試合をこなす」というプリンスリーグの試みは、画期的なものであったといえる。

 しかし、これが極めてハードなものであることも間違いない。これから夏場に入るとさらに過酷さを増し、多くの故障者を生み出すことになる。しかし、こういう過酷さこそが選手を育てるのだという考え方にも一理ある。高校勢よりクラブユース側にこういった厳しい試合の連続を歓迎する向きが強いのは「厳しい大会を利用して選手を育成したい」(浦和・菅野監督)という意識があるためと思われる。「ノックアウト方式を排して、リーグ戦を導入」という言葉を聞くと、何だか選手に優しいイメージがあるが、むしろ従来以上に選手を追い込む方式であるとさえ言えるのかもしれない。

 

■既成の育成方法が通用しなくなってきた

「追い込む」と言えば、短いインターバルで試合が重なるせいで、選手を追い込む、あるいは「とことんいじめる」(大山監督)練習ができなくなった、という声も聞こえてくる。

「プリンスができてから、チーム作りの時期を早めなくてはならなくなった」(国見・小嶺忠敏総監督)との声もあり、大山監督も「プリンスリーグを戦うためには、もっと早くからチーム作りをしなくてはいけない」と語る。1月から2月は、フィジカル面を中心に個人を鍛える時期という認識は高校だけでなくクラブ側にも見られたものなのだが、それでは3月から5月に開幕するプリンスリーグに間に合わないのである。必然的にプリンスリーグ参加校は、チーム作りの時期を従来より前倒しすることを余儀なくされる。しかし、これが従来の高校サッカーの価値観から考えると、失敗としか言いようがない事態も招く結果につながってしまうことがある。昨年、プリンスリーグの集大成というべき高円宮杯に参加した高校の多くが、肝心の高校選手権で都道府県予選敗退を含めた不本意な成績で終わってしまったのは、決して偶然とは言えまい。

 早めにチームを作るということは、選手の成長を阻害する要素になりかねない面もあり、実際に現場では賛否両論が渦巻いているようだ。しかし、「プリンスリーグの価値が大きくなっている」(浦和・菅野監督)のは間違いない。もはやこれを無視できる指導者はいないだろう。同時にこの傾向が歴史を積み重ねるごとに加速していくのだろう。雑多な問題があり、中にはなかなか解決策が見つけにくい問題もある。しかし、中・長期的に考えれば、プリンスリーグは日本サッカーにとってポジティブなものになるはずだ。その効用はまだ明確なものではないかもしれないが、確かに感じることができる。最後に再び大山監督の言葉を引用させていただこう。

「時代が今までの高校サッカーの考えと違うなら、こちらも考えなければいけない」

 

 

川端暁彦/Akihiko KAWABATA

 1979年8月7日大分県中津市生まれ。育ったのは神奈川県なので、忠誠の対象は神奈川県国体選抜。日本のユース世代へ深い愛情を注ぎ、日々その知見を広げている。最近気になることは、J1某チーム監督が指導者講習会で語った「弱小クラブ以外にユースチームは必要ない」ということの是非。『J's GOAL』(Jリーグ公式サイト)、『SOCCERZ』(フロムワン)などにも寄稿

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/hs/column/200405/at00000607.html   04/05/14

 

 

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