変わりゆくユース年代 ─2003年プリンスリーグの幕開け─

■公式戦の重みによる選手・指導者のモチベーションの変化

 「ユース年代に育成を目的にした新しい大会を」との発想から、今年度新たに創設されたU-18プリンスリーグ。これまで高体連とラブユースの垣根を越えて行われる公式戦はトーナメント方式の全日本ユースのみだったが(※例外的にU-18関西リーグが関西サッカー協会公認の下に、2年前から行われていた)、プリンスリーグは読んで字のごとく、北海道から九州までの9地域ごとにリーグ戦形式で優劣を争う大会となった。

 さてこのプリンスリーグ、8月中にすべての日程を終えることになっているのだが、既にすべての日程を終えた九州、中国など、それぞれの地域で大まかな勢力地図は見えてきた。同時に選手、指導者にとっては大会の意味が輪郭としてハッキリとしてきたようだ。

「選手のモチベーションの点でも『公式戦』であることは全然違いました」

 と話すのは市立船橋の石渡監督。昨年度まではU-18関東リーグとして行われていた大会(非公式)があったが、そこにタイトルの重みは希薄だった。

「インターハイや高校サッカー選手権に比べ、全日本ユースは行けたら、行ければ、のようなところがありました。関東大会に勝って、勢いでみたいなところがありましたね(注:昨年度までは高体連は各地域大会優勝チームが全日本ユースに出場)。ところが、4カ月ずっと戦って、力のあるチームが出るというふうに意味合いが変わってきました」

 7月23日、関東リーグの最終節で市立船橋と前橋育英が激突。Jリーグのスカウトも数多く足を運んだ高校サッカー界の強豪同士の激突は、前半立ち上がり50秒に前橋育英が市立船橋のすきを突いて先制。しかしその後、市立船橋が流れを取り戻し後半3分に同点に追いつく。結局両者一歩も譲らず1−1のドローに終わった。ゲームは両者のクオリティーの高さを随所に示すものだった。このレベルの戦いばかりではないことも現実だが、こうしたカードが公式戦で行われることは意味深い。前橋育英などは既に全日本ユース出場決定トーナメントへの進出(関東A、Bグループのそれぞれ上位3位まで)を決めていただけに戦い方が難しかったが、

「絶対に勝ちに行く。モチベーションをしっかり高めて戦うことを徹底した」(前橋育英スタッフ)

 というように、トーナメントとは違った意味でのモチベーションのあり方も、リーグ戦になったことで生まれた。結果前橋育英は後半に入って退場者を出したことでゲームプランは崩れたが、長いリーグ戦を戦い抜いてきたことでタフな戦いができるようなったようだ。

 

■高校勢が占めた関東 予想通りの関西

 さて関東の結果だが

【グループA リーグ戦結果】 1位:桐光学園 2位:帝京 3位:鹿島

【グループB リーグ戦結果】 1位:前橋育英 2位:市立船橋 3位:浦和東

 見ての通りJユースが1チームも入っていない。ユース年代は3年でチームがひとサイクルすることから、この結果だけを受けて「関東は高体連がJユースを実力的に上回っている」とは言い難い。ただJユースは質の高い練習と言われがちだが、運動量などフィットネスの部分で、「選手を追い込んでいない」とあるJリーグチームのスタッフが話す通り、ややもの足りないものがあった。「質より量と言われるが、この年代は絶対量が必要な時期で、やったらやっただけ身になる」という他のJリーグ関係者の声もある。

 一方、関西ではある程度予想通りの結果になった。

【Aブロック リーグ戦結果】 1位:セレッソ大阪U−18 2位:京都パープルサンガユース 3位:金光大阪

【Bブロック リーグ戦結果】 1位:ガンバ大阪ユース 2位:滝川第二 3位:大阪朝鮮

 関東と同じく、8月下旬に2つある出場枠をトーナメントで争うことになるが、関西のJユースの4チームのうち3チームが残っている。中でもガンバ大阪ユースに関してはU-18日本代表4人を擁し人材の点では日本のユース年代でも最高レベルだろう。ゆえに

「引いて守ってくる相手にいかに点を取るか、戦い方をいろいろと学べる部分がある」(ガンバ大阪ユース島田監督)

 と高体連との戦いの中で得るものは多かったようだ。

 ただ、そのガンバ大阪ユースも幾つかの穴はあり、特にDF陣には不安が隠せない。滝川二戦では明らかに守勢に回る時間帯もあった。また既にトップ昇格しているMF寺田、家長、FW三木もゲーム前の数日だけユースでチーム練習に参加し(彼ら3人は現在もユース登録)、ゲームに挑んでいる。微妙なコンビネーションなどに課題を残したのも事実だ。この点で常にほぼ同一メンバーで練習、ゲームを行う高体連に比べJユースは劣ることになる。高体連とクラブの目的の違いがそのままゲーム内容に出たゲームもあった。過去の例で見るとガンバユースの育成方針はハッキリしており、夏までは徹底して個人の能力を伸ばす方針で、秋を過ぎてチームとして形を作る。その証拠に夏のクラブユース選手権では優勝経験はないが、冬のJユースカップでは史上最高3回の優勝を果たしている。それに今年は全日本ユースが通年大会として加わったことでどのような結果が出るかがyしみだ。

 さてその他の地域では東海が出場枠2に清水エスパルスユースと静岡学園、中国(出場枠1)はサンフレッチェ広島ユースとなっている。いずれのチームも非常にポテンシャルが高い。特に東海2位の静岡学園はインターハイ出場権を藤枝東に奪われたものの、リベンジ果たした。トーナメントとは違う結果が出るところがリーグ戦のリーグ戦たるところといえるだろう。本大会でも優勝候補の一角に名を連ねると見られる。

 

■明らかに問題のあった九州の順位決定戦

 これまでプリンスリーグの全国の動向を見てきた。そこで最後に残った九州について。

 各県に名門と呼ばれる高校が存在し、圧倒的に高体連の実力がクラブユースを上回っていることは過去の歴史でも明らかだが、今季もその構図は崩れなかった。プリンスリーグへ出場できたクラブユースはアビスパ福岡U-18の1チームのみ。そして全日程を終えて全日本ユースへの切符をつかんだのは鹿児島城西、国見、東福岡の3チームとなった。特に鹿児島城西はJリーグも注目するU-18日本代表のMF中山を中心に、パスサッカーで国見を破り九州を制した。インターハイは鹿児島実の後塵を拝したが、やはりリーグ戦では結果が大きく変わってくることが東海に続いて証明された。

 ただ、九州の代表決定の過程で大きな問題も存在した。リーグ戦を終え、順位決定戦でのことだ。九州地域には全日本ユース出場権は3枠が割り当てられているのだが、その3チームの決め方はA、B組に分かれてリーグ戦を行った結果、各組の上位2チームを選出。その2チームがたすき掛け方式で順位決定戦を行う。まず準決勝を行い、勝った2チームはその時点で出場決定、さらに3位決定戦と決勝を行うことになっていた。

 ところがこの順位決定戦が大問題で、準決勝を午前中に行い、3位決定戦を同日の午後に行うことになっていた。この日程には当初から非難ごうごうだったが、結局強行された。準決勝の組み合わせは国見対東福岡、鹿児島城西対鵬翔。ここで東福岡は国見戦に主力を温存、結果0−9で敗れたものの、3位決定戦で鵬翔を2−1と下し3位で全日本ユース出場権を獲得した。

 東福岡が主力を温存したことには批判もあったが、本来批判されるべきは九州サッカー協会である。ゲームが1日に2ゲーム行われることで、どのゲームに力を注ぐべきかを冷静に考えれば、結果的にそうならざるを得なかったというべきだろう。枠は3つあるのだから、戦略的にどこに力を注ぐべきかを考えるのは当然のことだ。むしろ、なぜ協会が一日2試合にこだわったのか――。しかも1日2試合の体力面を考慮し、ゲームは35分ハーフで行われた。プリンスリーグ、全日本ユースのゲームは45分ハーフで行うという趣旨はいったどこに消えてしまったのだろうか。準決勝と3位決定戦、決勝を1週ずらすだけで問題はなかったはずだ。そうすればどのチームもフルメンバーで戦うことはできたし、45分ハーフでゲームも行えたはずだ。

 当初からプリンスリーグは8月31日までに終了すればいいと規定されている。現実、関西も関東も7月末でリーグ戦が終了、8月末に順位決定戦が行われる。九州も時間には余裕があるはずだ。他地域の指導者にこのことについて聞いたところ、「明らかに日程が問題。もしウチが東福岡の立場なら、ウチでもそうする可能性はある」との声が返ってきた。来年度以降の課題として、各地域協会は綿密に日程を検討してほしい。

 ほかにも問題はある。言葉は悪いがアシスタントレフェリーが使い回されるケースもある。大体リーグ戦は日程の都合上同一会場で2試合が行われることが多い。先日、市立船橋と前橋育英のゲームの前には、流通経済大柏と前橋商とのゲームが行われた。この2試合ともアシスタントレフェリーは同じだった。アスリートと同様の体力が要求される審判団に2試合をジャッジさせることはどう考えても無理だろう。体力が落ちれば、ジャッジにもミスは出てくる。ただ、残念なことにこうしたことはインターハイや高校選手権の予選でも行われている(ひどい場合は各クラブの部員がジャッジするケースすらある)。選手やスタッフは真剣に勝負に挑んでいる、それをひとつのミスジャッジが無にしてしまいかねない。昨年度の高校サッカー選手権予選決勝でミスジャッジに泣いたチームがあったことを忘れてはほしくない。

 

■プリンスリーグは発展途上 いつの日か最大のタイトルが全日本ユースに

 上記の問題は改善しようとすればすぐにでも取り掛かることはできる。ただ大きな問題として、9地域に分けて大会を行うことで、九州、関西、東海、関東などのレベルの高い地域と、そうでない地域との格差がより大きくなることが懸念される。私見としては全国をもう少し大まかに分けて、九州と中国をひとつのグループに、同様に関西と四国を、北信越を東海または関東、東北と北海道といったくらいの大胆なグループ分けをしないと、発展途上の地域はどんどん取り残されていくことになってしまいはしないか。

 かつて国見の小嶺監督(現総監督)が強豪との対戦を求めて自らバスを運転して関西や、関東に遠征に出掛け、今の国見を作り上げたように、格上のチームとの対戦でしか見えてこない部分は多いはずだ。もちろん、このあと全日本ユースでは参加16チームをグループ分けして、リーグ戦形式の対戦が用意されている。ただ、そこに出場できるチームは数少ない(注:北海道=1 東北=1 関東=2 北信越=1 東海=2 関西=2 中国=1 四国=1 九州=3 さらに2003年度のインターハイ、クラブユース選手権各優勝チームを加えた16チームが参加)。しかも北信越のプリンスリーグはわずか5節で終了してしまう。東北のように参加8チームで2サイクル、都合14節というように、工夫を凝らすこともできるが、やはり他地域との対戦を増やすことが全体のレベルアップにつながることになるだろう。

 またプリンスリーグが通年大会となったことで、今後はどのチームも選手層に厚みを増しトいかなければ大会を勝ち上がることはできない。特に九州などは3月に大会が始まる。これまでなら高体連のチームはインターハイをひとつの区切りに、チーム力の整備を考えればよかった。しかしプリンスリーグができたことで、3年生が引退した直後の新チームで公式戦を戦うことは、チームの潜在能力が試されることになる。指導者にとっては大変な時代になったともいえる。

 ここまでプリンスリーグの全国の動向をざっと見てきた。同時にそこで見えてきたこれらの課題は、新しい試みの発展途上の問題として存在するわけで、年々改善がなされていくことになるはずだ(と思いたい)。今年より来年、来年より再来年と、改善を加えることで選手育成にプラスになる大会へとよりグレードアップして欲しい。ユース年代にとって最大のタイトルが全日本ユースといわれる時代が近い将来やってくることを願いたい。

 

 

吉村 憲文

1963年生まれ。同志社大学文学部卒業。大学卒業後は一時アパレルメーカーに就職したものの転職、大阪のTV制作プロダクションで放送作家の道に入る。そこでスポーツ報道番組に携わって以来、スポーツ報道の世界へ。現在は選手のメンタリティに根ざしたドキュメントを『Number』などの雑誌に発表、サッカーのユース年代の取材をライフワーク。また横浜F・マリノスの選手たちを描いた漫画『青き戦士たち』(小学館)の原作も担当。

http:// sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/hs/column/2003/0725yosh_01.html  03/7/25

 

 

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