U-23日本代表は何故負けたか?

アテネオリンピックアジア予選 vsバーレーン

─切り替える前に検証すべきこと─

 

■稀代のヒール、その名はバーレーン

 いやはや、それにしても何という堂に入ったヒール(悪役)ぶりであろうか……言うまでもなく、バーレーン代表の話である。

 来日した直後は、日本協会が用意したホテルや練習グラウンドに難癖を付けて「訴えてやる」などと揺さぶりをかけ、いざ試合となると日本の良さを消し去る戦術に徹し、先制点を奪うとちょっとしたフィジカルコンタクトでも大げさに痛がる素晴らしい演技を見せ、さらには5万人の日本サポーターからの大ブーイング(まさか日本で、あれほど殺気立ったブーイングを体感できるとは思わなかった)にも涼しい顔で受け流していたバーレーンの選手たち。おそらく彼らは、これほどの大観衆からブーイングを浴びた経験などなかっただろうし、今後もきっとないだろう。

 しかも1−0で勝利した瞬間には、こちらが泣きたくなるほどの大はしゃぎをピッチ上で繰り広げ、揚げ句の果てには一面青に染まったゴール裏に恭しくあいさつまでしてくれた。当然、試合後もスタジアムはブーイングの嵐。熱血日本サポーターも、今回ばかりは日韓戦での敗戦以上にブチ切れたのではないかと察する。と同時に、明日、バーレーン大使館に生卵でも投げつけられるのではないか、などと余計な心配さえしてしまう。

 これまでほとんどの日本人が、そして日本サポーターが歯牙にもかけなかった、総人口わずか69万の湾岸の小国・バーレーン。今日の埼玉の敗戦で、その名は私たちの脳裏に深く、深く、刻まれることとなった。

 

■見事にはまったバーレーンの「日本攻略マニュアル」

 思い出すのもいまいましいのだが、今しばらくバーレーンについて言及する。

 彼らは明らかに、戦前から日本をよく研究し尽くし、徹底して日本の良さを消しながら、あわよくば少ないチャンスをモノにして勝利することを目指してきた。そして、UAEラウンドでの対戦をスコアレスドローに持ち込んだことで自信を得た彼らは、その「日本攻略マニュアル」にさらなる磨きをかけて今回の戦いに臨んだのである。

「日本攻略マニュアル」の基本は、ディフェンスラインをべったりと下げて自陣でのスペースを埋め、中盤での相手のパスをカットすることで速やかにカウンターを仕掛けることにある。中東勢にはありがちな戦術パターンだが、バーレーンの場合はその傾向が半端ではない。相手がボールポゼッションでいくら上回ろうが(日本:59.6 バーレーン:40.4)、相手にどれだけシュートを打たれようが(日本:16 バーレーン:5)、とにかく5枚以上の赤い壁を作って相手のアタックをはじき返し、根性で持ちこたえることで失点を防ぎ、同時に相手のスタミナを消耗させる。これで相手のラインが間延びしてきたら、シメたもの。スルーパスと個人技を組み合わせながら、一気に攻撃に転じる。

 以上ここまでは、前回の対戦でも見られた彼らの戦術である。

 バーレーンは今回さらに、上背のあるFWに対して2、3人で競り合うことでクサビを封じ、両サイドに厚みを持たせることで相手のオープン攻撃に対しても万全に対処した。そして圧巻は、先制したあとに多用した例の「演技」である。第一の目的は、もちろん時間稼ぎだが、今回は日本の冷静さを失わせる意味においても実に有効に働いた。いかに日本の選手を焦らせ、いら立たせ、プレーの視野を狭くさせるか。ボール支配率でも、シュート数でも、はるかに上回る相手に対して、この心理戦は想像以上の効力を発揮した。

 バーレーンにしてみれば、日本ラウンドを全勝しなければアテネへの道は閉ざされる。しかも、上位にいる日本もUAEも、実力的にははるかに上だ。少しでも勝利に結びつく可能性のあることはすべてやり尽くすしか、彼らに残された道はなかったのである。

 繰り返しになるが、バーレーンは総人口69万、国土は日本の奄美大島ほどしかない小国である。自分たちの小ささを十全に自覚していたからこそ、彼らは、われわれの神経を逆なでするようなサッカーに徹したのであろう。

 もっとも、こうした小国の戦い方は、何もバーレーンに限った話ではないようにも思える。「いつかは日本の寝首をかいてやろう」と、虎視眈々(こしたんたん)としているチームは、アジアにはゴロゴロ存在しているのではないか。今後、二度と足元をすくわれないためにも、日本は今以上に「アジアの中堅国の危険性」について敏感になった方がよさそうだ。

 

■日本は今日の敗戦を検証しなければならない

 さて、山本ジャパンである。

 試合後のミックスゾーンでは、選手たちが口々に「気持ちを切り替えないと」を繰り返していた。おそらくは山本監督の口から発せられた言葉が、そのまま流布したものであろう。山本監督自身、試合後の会見でこの言葉を何度となく強調している。

 確かに、中一日で次のレバノン戦に備えなければならない現状を考えれば、気持ちを切り替えることは何よりも重要である。そのこと自体については、何ら否定しない。だが一方で、今日のバーレーン戦をキレイさっぱり忘却の彼方に追いやってよいのか、とも思う。

 つまり、こういうことだ。

 今回のバーレーンの勝利は、これから日本が対戦するレバノンとUAEに大いなる自信を与えてしまった――言葉を変えれば、バーレーンの「日本攻略マニュアル」が、グループ全体の共通認識となってしまった、ということである。これは非常に深刻な問題だ。

 気持ちを切り替えることの重要性については、論を待たない。しかしその前に、日本は、今日の敗戦で浮上した問題を検証し、次のレバノン戦に向けて的確に修正しなければ、日本がこれまで積み上げてきたものが道半ばにして瓦解(がかい)する危険性さえある。

 それだけは、何としても阻止しなければならない。

 では、どこをどう修正すべきなのか?

 実のところ私は、今回の敗因の一端を、山本監督のさい配がことごとく裏目に出てしまったことに見いだしている。FKによる失点は、極論すればゲームによくある不運でしかない。これに、選手起用と交代がうまく機能しなかった不運が連鎖して、この信じがたい結果が導き出されたものと考える。逆に言えば、状況に応じた適材適所のさい配がなされれば、その分だけ勝利の可能性、ゴールの可能性はより高まっていたはずなのである。

 そんなわけで以下、「後だしジャンケン」を承知で、今日の山本さい配を検証する。

 

■それでも日本には勝ち点を挙げる可能性があった

 まず、前半30分の闘莉王の戦線離脱。

 これまで、早い時間帯でのDFの交代をほとんどやってこなかった(というより、その必要はなかった)山本監督にとって、この事態には本当に面食らったことだろう。その意味では同情する。だが、ここで指揮官は、冷静にいつものさい配をするべきであった。すなわち、右MFの徳永をディフェンスラインに下げ、空いた右アウトサイドに石川を入れれば済んだ話である。

 徳永、那須、茂庭と並んだ最終ラインは、確かにスクランブルであることは言うまでもないし、実際に投入された阿部もよくラインを統率したと思う。だが、それでも私は、貴重な交代カードは前線のてこ入れに取っておくべきだったと考える。

 一方の石川は、実際には後半28分に根本と交代。慣れない左での起用となったが、現状の顔ぶれと今日の出来を考えれば、根本を代える必然性はなかったように思える。当の石川にしても、スペースの少ない右サイドであっても本領発揮できたのではないか。さらに言えば、この時のさい配次第では、手元のカードはまだ2枚残っていたことになる。

 後半34分の鈴木アウト、松井インも不可解であった。

 松井を投入するのであれば、もっと早い時間帯で、それも鈴木ではなく前田と代えるべきであった。なぜなら松井と前田が前線でカブるシーンが何度か見られたからである。結果的にバイタルエリアはさらに混雑し、ただでさえ限られていたシュートコースは完全につぶれてしまった。加えて鈴木自身も、決していい出来ではなかったものの、攻守の貢献度を考えれば見切るべきではなかったと思う。

 ともあれ、この交代でも切り札はまだ1枚残る。

 ここで、おそらく山本監督が投入を考えていたであろうフレッシュ・大久保を使うことができたはずだ。この場合、アウトは高松。高さでの打開策が見いだせない以上、ここは高松ではなく大久保の個の迫力に賭(か)けるべきではなかったか。これに田中、松井、石川がゴール前で絡めば、あるいはUAE戦での先制ゴールのような、泥臭くも感動的なシーンが見られたかもしれない。

 もちろん、今さら「たら・れば」の話をしても詮無きことは百も承知だ。私がここで主張したいのは、限られた戦力と度重なる不運やアクシデントの中であって、それでも日本にはまだまだ勝ち点を挙げるだけの可能性があった、ということなのである。

 いずれにしても、現時点で日本にできることは、戦力的にも時間的にも極めて限られている。上位3チームの勝ち点が並んだことで、状況的にも追い詰められた。かくなる上は知力と胆力と精神力を総結集し、少しでも勝利に結びつく可能性のあることをすべてやり尽くすしか、日本に残された道はないのである。

 そう、あのバーレーンのように。

(文=宇都宮徹壱 氏)

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/athens/column/0314utsu_01.html

 

 

 

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