消耗戦の末に手にしたもの

─北京五輪アジア最終予選 第2戦─

 

 2007年09月09日

■高温多湿での試合

 キックオフ時、近くにある温度計は気温34度、湿度78%を示していた。テレビで見ている分には伝わりにくいが、座っていても汗が吹き出てくるほどの暑さ。取材陣も試合開始のころには服がびしょびしょに濡れており、ドリンク類は飛ぶように売れた。

 サウジアラビアのアラビア海沿いの街ダンマームは、内陸部の首都リヤドと違って、高温多湿の気候が特徴となっている。昼は湿度は低めだが気温が高く、夜は気温は下がるが非常に湿度が高い。

 暑さの厳しい昼間は道路を歩いている人はほとんどおらず、車も少ない。試合当日の昼間に外に出てみると、手元の温度計は44度にまで上がっていた。時おり風が吹くものの、それは熱風とも言うべきもの。エアコンの室外機の前に立っている感じといえば、一番イメージが近いだろうか。

 この日の試合開始時刻である午後8時30分ともなれば、さすがに40度は超えないが、その分湿度が高くなって不快感は増す。こういった環境の中でサッカーをする場合、前からプレスに行くことは自殺行為に等しい。

 選手たちも試合前、「全力でやっては90分間もたないからメリハリをつけて、プレーの質を意識してやればいい」(伊野波雅彦)、「最初からガチガチいったら90分もたない。メリハリをつけてやりたい」(内田篤人)と、サウジアラビア戦の戦い方を語っていた。

 加えて第1戦のカタール戦を落とし、早くも後がないサウジアラビアは積極的に来ることが予想された。酷暑の中、強敵サウジアラビアにどういう戦いができるか。求められたのは、華麗なサッカーではなく、タフなサッカーだった。

 

■マークが混乱し、押し込まれた前半

 試合開始前のスタメン発表。何と、そこにはこれまで不動のエースだった平山相太ではなく、森島康仁の名前が記されていた。テストの意味合いを持たない試合で、平山がスタメン落ちしたのはこれが初めて。また、右サイドでは内田が初先発、初出場を果たした。

 サウジアラビアが攻撃的MFが中に絞るブラジル流の4−4−2で来ると想定して、この日の日本は3−6−1の布陣を採用。相手の攻撃的MFは梶山陽平、本田拓也のボランチコンビがマークし、本田圭佑と内田の両サイドは相手サイドバックの上がりを、家長昭博、水野晃樹の2シャドーが相手ボランチをケアするという狙いだった。

 しかし蓋を開けてみると、サウジアラビアの攻撃的MFは意外とサイドに開いてきた。このため、日本はボランチと両サイドでマークが混乱。そもそもこのチームは基本的に、中盤でもマンマークの守備をする。相手の攻撃的MFが開いた場合は、互いに声を掛け合ってマークの受け渡しをするものの、慣れないせいかスムーズにはいかない。ボランチがサイドにマークに行って開いた中央を破られたり、相手サイドバックがオーバーラップする場面では、サイドで数的不利を作られた。「前半はマークのつかみ所とかの連係で多少戸惑った」(梶山)、「前半は守備ができてなかった」(柏木陽介)と言うように、日本は前線から中盤の守備が安定しなかった。

 このため、サウジアラビアに容易にボールを回され、日本は押し込まれてゴール前への侵入を許す場面も。DF陣の踏ん張りと相手のミスも手伝って前半は無失点だったが、早急な修正が求められた。

 

■的中した後半のさい配

 後半になると、反町監督は慣れない中央のポジションで攻撃に絡めなかった水野に代えて、柏木を投入した。

 大きな変化が出たのは守備面。「しっかり前からサイドに追い込む守備を言われた。僕がサイドバックについて、相手の攻撃的MFを本田(圭)君が見るようにした」と柏木が語ったように、相手の攻撃的MFのマークを日本の両サイドが担当し、サイドバックは前線の選手がチェイスすることで、マークをはっきりさせた。それまではほとんどマークする相手を持っていなかった森島も、もともと運動量が多くない家長に代わり、相手左サイドバックへのチェックを精力的に行った。

 これにより、梶山と本田拓は相手のボランチ2人にマークが変わり、より高い位置からプレスに行けるようになった。これが攻撃面にも良い影響を与える。後半2分には梶山が、6分には本田拓が前線を追い越す動きも見られるようになり、日本は躍動感を取り戻した。

 日本がペースをつかみ出した後半19分には、アル・タガフィが2枚目のイエローカードで退場に。1人多くなった日本は主に右サイドで数的有利を作り出し、内田がたびたび攻撃参加した。

 19分、本田圭のクロスを森島がヘディングで狙うが枠の外に。23分には、梶山のパスに抜け出した家長がゴール前まで迫るが、切り返しをカットされてシュートを打てず。さらに31分には、柏木のクロスを家長がヘディングで狙うも、相手GKのセーブに遭う。日本は最後まで得点は奪えなかったが、厳しい環境の中でも安定した戦いぶりで、価値ある勝ち点1をもぎ取った。

 

■「相手に勝ち点3を与えなかったことを良しとしたい」

 この日はアウエーの厳しい気象条件のため、日本が目指すサッカーを追求することはできず、現実的な戦い方をせざるを得なかった。このため、ベトナム戦後に反町監督が語っていた「目指すサッカーの完成形」が、次のホームでのカタール戦に持ち越されたのは致し方ないだろう。

 この試合では、そんな状況下でグループ最強と見られるサウジアラビアから勝ち点1をもぎ取ったことを、素直に評価したい。このチームは発足以来、アジアのチームとばかり試合をしてきたため(アジア以外では米国とボツワナのみ)、アジアの環境下でサッカーをすることには、かなりの耐性が身についている。プレッシャーのかかる最終予選のアウエー戦でもパニックになることなく、忠実に任務を遂行できた裏には、そういった経験が生きていると言える。

 試合終盤、相手の1トップに3バックを付けていた守備的なさい配は賛否両論を呼びそうだが、これは勝ち点1でもOKとベンチが判断した上でのこと。決定的チャンスは日本の方が多かっただけに、勝ち点2を失った感もあるが、欲張って勝ち点3を取りにいっていたらどうなっていたかは分からない。終盤まで強敵サウジアラビア相手にアウエーで0−0、さらに最終予選はまだ2試合目という状況。ここでリスクを犯した挙げ句に勝ち点1を失い、ライバルのサウジアラビアに勝ち点3をプレゼントすることはどうしても避けたい。「相手に勝ち点3を与えなかったことを良しとしたい」という反町監督のコメントは本音だろう。

 

■U−20世代の台頭で生まれつつあるチーム内の競争

 結果とは別にこの日の収穫として挙げておきたいのは、ピッチに立ったU−20世代の選手が増えたことだ。ベトナム戦でピッチに立ったのは柏木だけだったが、この試合では3人に増えた。次の試合は本田圭が累積警告で出場停止のため、安田理大が出場する可能性も高い。

「ポジションニングとか動き方やシステムは大体分かった。でも、まだ体に染み付いていないから、もう少し時間がかかる」(内田)、「まだ自分を出せてないので窮屈な感じはある」(柏木)と、まだチームの一員としてかみ合わない部分もあるが、それでも彼らは立派にチームのオプションとして計算できる戦力となっている。

 これまでこのチームは、主力と新しく入ってきた選手の入れ替えが少なかった。主力が参加できない大会では新戦力へのチャンスが与えられたが、主力を脅かすまでの存在に至ったケースは少ない。よって、チーム内での競争という意味では厳しさが足りなかった。それがここに来てU−20世代が台頭したことで、チーム内での競争が生まれつつあるのだ。

 反町監督は、この日平山を外して森島を起用した理由を「前線からのディフェンスのつき方とか、調子が悪くなかったということ」と説明しているが、これまでであればどんな状況であれ、平山を外すことはなかった。それが、今回はさまざまな状況を考慮に入れたという理由があるにせよ、森島を起用したことで「状況によっては平山も外すよ」、「レギュラーは誰も保障されていないんだよ」というメッセージを発信したとも考えられる。今後は、主力だった選手もうかうかしてはいられなくなるだろう。

「チーム内で競争することによって、チームがステップアップできればいい」(反町監督)

 酷暑の戦いの中で見えてきた若手の台頭。これに主力の奮起が加わった時、北京五輪への道はより近いものとなるだろう。

 

SPORTS NAVI編集部  渡邊浩司 氏)

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/column/200709/at00014388.html

 

 

 

 

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