なでしこジャパン、アテネで見えた世界との差

2004年8月28日

■手ごたえは十分にあった。しかし……

 ミア・ハムの表情は、終始ゆがんでいた。ワンバックの足はふらつき、ワンプレーごとにひざに手をやり、呼吸を荒げていた。試合終了と同時に見せた安どの表情が、アメリカにとってこの準々決勝がどれだけ過酷なものだったかを物語っていた。

 予選を他のグループより1試合多く戦い、中2日というタイトなスケジュールを強いられ、明らかに見えた疲労の色。しかし昨年9月のワールドカップでドイツに敗れ、女王の座から引きずり降ろされた雪辱を果たすためには、こんなところで負けるわけにはいかない。必死の形相、「気迫と意地」だけがアメリカの支えだった。

 中5日、日本のコンディションは最高だった。オフを取り、観光にも出かけるなどしてリフレッシュした。有利な条件は整い、進化を遂げてきた今の日本なら、アメリカに勝てるかもしれない。いや、今たたかないで、いつたたく。準々決勝を迎えたなでしこジャパンの闘志に、ぬかりはなかった。

 確実に縮まった世界との差。手ごたえは十分にあった。しかし、世界の強豪との真剣勝負を制するには至らず、やはりまだ差はあるのだと痛感させられた。縮まりそうで縮まらない。あと少しに見えても、実はまだまだ大きな差なのだとも思う。

 

■スウェーデン戦での収穫

 日本の進化は、初戦のスウェーデンに勝利したことで証明された。

 スウェーデンは、お世辞にも本調子だとは言えなかった。それでも、そういう相手にきっちり勝てたことが大きいのだ。

 今までの日本は、大舞台で、しかも相手が強豪というだけで腰が引け、大敗または惜敗を繰り返してきた。もちろん、相手の調子がいい時は負けても仕方がない。しかし相手の調子が悪い時ですら、内容では完全に勝っているのに、終わってみれば必ずと言っていいほど惜敗していたのだ。

「負けて当然。私たちは悪すぎた」

 このコメントの通り、あの試合のスウェーデンは確かに本調子ではなかった。しかし確実に日本が結果を出した今、スウェーデンのあの言葉は、空しい言い訳にしか聞こえない。「調子がよければ、本当に勝てたのか?」と逆に問いただしたくなるほど、日本の勝利は完ぺきだった。

 勝てるチャンスに確実に勝つ。このスウェーデン戦に勝利したことは、日本の素晴らしい進化の証(あかし)。そしてアテネ五輪での一番の収穫だろう。

 

■世界との差は「個の力」の差

 続くナイジェリア戦。見たものを圧巻したのは、その驚異的な身体能力だっただろう。長い手足と強じんなバネ。日本では「俊足」と呼ばれる選手のスピードが、ナイジェリア選手の平均くらいだった。幾度となく訪れたナイジェリアの決定機に、「もし技術があったら」とぞっとした。

 日本とは対戦しなかったが、初の決勝進出を果たしたブラジル(決勝でアメリカに敗れて銀メダル)は、まさにナイジェリアに男子並みのテクニックをつけたようなチームで、特に弱冠19歳のマルタと18歳のクリスチアネは、相手DFを子供扱いするかのようにピッチを駆け抜けた。

 アメリカやドイツと対極ではあるが、今後ブラジルやナイジェリアのような身体能力の高い国々は、さらなる躍進を遂げて世界の脅威となるはずだ。

 日本のシステム、戦術は高いレベルにある。スウェーデン戦の勝利はまさに「戦術」の勝利だった。しかしナイジェリア戦では「スピード」に、アメリカ戦では「力」に負けた。どんなにち密な戦術を立てたところで、驚異的な「個の力」を持つ世界が相手では限界があるということだ。

 極論するなら「個の力」――やはり世界との差は、この差だと思う。準々決勝で日本選手が次々と倒されていく中、果敢にアメリカ選手に突っ込み「バトル」を繰り広げていたMFの澤は、WUSA(アメリカ女子プロサッカーリーグ)の経験から、結局最後は1対1の勝負なのだ、ということを体で覚えているのだろう。

 そして、澤ほどの強さはなかったが、FW荒川もアテネ3試合を通して、そのスピードとテクニックで相手DFを翻ろうした。世界で通用する選手が、また一人現れたと感じさせてくれた活躍だった。

 4年後とは言わない、何年かかってもいい。日本が本当に世界で通用するために、そしてさまざまな国が、それぞれのカラーで頭角を現してきた今だからこそ、さらに強く願うのは、澤や荒川のような選手の育成と発掘である。

 

■善戦や健闘を称えるだけでなく…

 女子サッカーは、まだ一般にはよく知られていない。少し勝てば「メダル、メダル」と騒ぐほど、現実は甘いものでもなければ、簡単なことでもない。それでも、準々決勝に敗れてすべてが終わった今、期待に応えられなかった現実を、選手たちは嫌というほど味わうことになるだろう。

 しかし忘れてはならないのが、選手はよくやった、という事実。夢にまで見たオリンピックという大舞台で、ベストを尽くさない選手はいない。前回大会を逃したという屈辱を味わった選手も多数いるだけに、なおのことアテネへの想いは強かったはずだ。選手は結果を恐れず、今持っているすべての力を出し尽くしたのだ。

「最後まであきらめない姿に感動した」

 大会終了後、そう評価してくれるのであれば、女子サッカー関係者の方々には、少しでも早く、世界との差を縮めるための環境を作ってあげてほしい。そう切に願う。

 これで終わりなのではなく、ここからが始まりなのだから。

 

 

野田朱美/Akemi NODA

1984年、読売サッカークラブ'BELEZA'入団後中学3年で女子サッカー日本代表入り。Lリーグ4連覇、MVP、得点王、ベストイレブン等、女子サッカーの一線で活躍。日本代表として1990年第11回アジア大会(北京)銅メダル、第1回女子ワールドカップ(中国)出場、94年第12回アジア大会(広島)銀メダルMVP、95年第2回女子ワールドカップ(スウェーデン)ベスト8。96年アトランタオリンピック代表キャプテン。96年の引退後、現在はスポーツキャスターとして活動中

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/athens/column/200408/at00002258.html 04/08/28

 

 

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