ヤタガラスの子供たち

25回 防御は最大の攻撃なり

2004年8月18日

 あなたは「守る」ことに対してどんな印象を持っていますか?

      

 独断かもしれないが、否定的な、換言すれば消極的なイメージを抱いている人が多いのではないのだろうか。広辞苑によると「守る=侵そうとするものをくいとめる」とある。取材をする場合、守備の選手よりも、どちらかというと攻撃の選手に目がいっていたことを告白する。自分がサッカーのプレー経験がないこともあり、華麗なゴールシーンばかりに目を奪われていたのである(恥ずかしい話だが)。ただここ数か月、EUROに始まりインターハイと(レベルの差異こそあれ)見ていて思ったのだが、結果を出すためには(特にトーナメントなどの短期決戦で)守備の安定こそが最優先する要素なのではないかそう思うようになってきたのである。特に最近目がいくのはセンターバックなのである。

 

 インターハイ直前の7月23日〜25日まで群馬・藤岡市で開催されたフェスティバルを取材した。1、2年生主体でインターハイ初出場を果たし、ベスト16入りした大阪・履正社を見に行ったのだ。同校の平野監督とは高校サッカーの監督になる以前から知り合いだったこともあり、「どれどれ。どんなチームなのか拝見しましょう」とぞんざいな気持ちで見たのだが、「おお!!」と目を引いたのが永戸、長島の両センターバックだったのだ。バイタルエリアに向かって放り込まれるフィードを確実に力強く何度もはね返す姿は、失点を防ぐとともに効果的な攻撃のビルドアップの起点ともなっていたのである。

 試合後、平野監督と握手を交わした。「いいですね。センターバック。ここが安定していればインターハイ本番でも期待できそうですね」。「そうですか? ただディフェンスを安定させていくっていうのは高校サッカーの先生方が勝つために意識しているみたいですね」このやり取りからも、一発勝負で勝つにはまず守備からということになる。そしてインターハイ本番ではそれを裏付ける事象があった。優勝した国見のことである。

 ホームページでのインハイ特集の観戦記でも書いたことだが、国見は大会前半はもたついた(失礼!)印象があった。報道陣の間でも話題になっていたことで、3試合17ゴールをたたき出した滝川二との対戦となった準々決勝では完敗するかも…という予想さえ聞こえてきた。だが結論はご存知の通り、国見がPK戦の末に勝利した。どちらかというとタフな印象のある選手たちが爆発させた歓喜。それはただ単にうれしかったからかもしれないが、チームの形がようやくできたという手ごたえからだと感じた。というのも、この大会前に国見は天皇杯県予選で同じ高校チームの長崎日大高に敗れていたのだ。このピリッとしない状況を小嶺総監督はどうしたかというと、トップ下の藤田をセンターバックに下げたのである。「藤田を下げたことでDFが安定してしっかりした組織ができた」と試合後に語った。そしてタレント軍団・前橋育英との準決勝でも同じくDF藤田で臨み、3−0と完勝した。そのときのコメントはこうだ。「前橋育英の攻めをこらえたのは藤田の存在が大きい。彼はファイトもあるし、去年から出ている。サッカーをよく知っている」。そしてこう続けた。「トーナメントはDFがしっかりしないと。攻撃がしっかりしても守備がザルでは…。(攻撃の選手をDFに下げるのは)初めての試みだったが、彼にいろいろなポジションを経験させることで、器用貧乏でないオールラウンドプレーヤーになった」。そして翌8月8日の決勝では鉄壁の守備を誇る市立船橋からVゴールを奪い連覇を達成。しかも本吉が挙げた決勝弾は、市立船橋・石渡監督が言うところの「うちが流れのなかで今季初めて許した失点」だったそうである。つまり守備の安定で、攻撃のパフォーマンスも向上したのだ。短期間での修正は国見ならではかもしれないが、比較的地味な「守備」という要素がチーム力をアップさせたのだ。一番強調したいことは、センターバックもストライカーと同じく優秀な人材が必要で、両方兼ね備えたチームは少ないということ。同時にそういう「こま」を持つチームが勝つのは当然のことかもしれない。これをつまらないととるか、なるほどとるか。それは守備=消極的という常識を疑わない思考と同じなのではないだろうか。      

 

 

著者: 網野 大一郎(あみの だいいちろう)氏

 1972年8月5日生まれ、静岡県出身。1997年報知新聞社入社後、運動第2部で相撲などを取材し出版部へ異動。出版部では高校野球と高校サッカーを中心に取材。静岡出身なので野球よりサッカーのルールを先に覚えた。

 

http://www.hochi.co.jp/html/column/youth/2004/0818.htm   04/08/18

 

 

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