市立船橋はなぜ負けたか? 第82回全国高校サッカー選手権 鹿児島実業vs市立船橋

■勝ち越しを目指し攻め立てる鹿実と、耐える市船守備陣

 1−1で迎えたPK戦。市船6人目のキッカー、バイスキャプテンの高橋昌大が力を抜いて蹴ったボールヘ、力なくゴールポストの左横を流れるように転がっていった。スタジアム中に響き渡る歓声と悲鳴。飛び上がる鹿実の選手たちとその場に崩れるようにうずくまる市船の選手たち。

 今大会優勝候補筆頭の市船が準々決勝で敗れた瞬間だった。

 1月5日、高校サッカー選手権は5日目を迎え、柏の葉公園総合競技場で準々決勝2試合が行われ、第1試合でこの大会のディフェンディングチャンピオンで、高円宮杯でも優勝を果たした千葉県代表の市立船橋高校が、古豪・鹿児島県代表の鹿児島実業高校にPK戦の末敗れた。

 この試合は終始、鹿実ペースで進んだ。鹿実は序盤から高い位置からのチェイシングが効果的に機能し中盤を支配。最終ラインでも、ストッパーの森井惟吉と森洋介が相手2トップのカレン・ロバートと田中恒太をマンマークで封じ込め、全く仕事させなかった。 それでも最初に決定機をつかんだのは市船だった。10分に右CKをフリーで合わせた渡邉広大のヘディングシュートはクロスバーの上を超え、先制点にはならなかった。 その後も豊富な運動量で中盤を支配する鹿実ペースが続く。27分鹿実の右CKからのボールを両チームの選手が激しく競り合い、さらにここに飛びしたGKの手をかすめるようにゴール前に落ちる。このボールを鹿実FW長嶺貴彦がシュートするがうまくミートできなかったのか力なく転がり、ゴールの中でカバーリングをしていた渡邉に大きくクリアされ先制点を挙げられない。 次のビッグチャンスは市船に訪れた。前半終了間際、鹿実のDFが、力づくで突破しようとするカレンを思わず手で倒しFK与える。ペナルティーエリアすぐ外側左60度の位置のこのFKのキッカーは鈴木修人。鈴木の蹴ったボールはDFラインの間を抜けそのまま鹿実のゴールネットを揺らした。市船が勝負強さを印象付けて前半を終了した。

 後半に入っても鹿実ペースは変わらず、市船の中盤の運動量が落ちたことを背景に、前半以上に中盤を支配し次々とゴール前にチャンレンジしていく。その攻撃が実を結んだのは26分。右タッチライン際からのディフェンス岩下敬輔からのセンタリングを、市船ゴール前で八坂和重、永嶺と頭でつなぎ、最後は山下真太郎が左足で蹴りこんで、鹿実が待望の同点ゴールを挙げた。この間、市船ディフェンスはほとんどウォッチャー状態になり、フリーに近い形で相手に得点を与えてしまった。高校サッカー界屈指の強固を誇る市船らしからぬ失点だった。

 今大会3試合目にして初の失点を喫した市船は、勝ち越し点を奪うべく攻撃的になる。中盤の選手が高い位置に残り相手ゴールを狙おうとする。だが、これがさらに鹿実ペースに拍車をかけた。

 勝ち越しを目指して攻め立てる鹿実と、耐える市船守備陣。結局試合はこのまま80分を終了し、PK戦に突入した。

 鹿実先行で始まったPK戦は、鹿実の4人が連続して成功した後の市船4人目の上田健爾。80分終了直前、PK戦要員として投入された彼の蹴ったボールは、クロスバーを大きく超えた。4−3で鹿実リード。鹿実5人目は岩下。ここで決めれば鹿実勝利のこの場面で、岩下の蹴った鋭いシュートを市船GK佐藤優也は横っ飛びしながらワンハンドセーブではじき出した。今年、チームのピンチを何度となく救ってきた守護神がまたもチームの絶体絶命のピンチを救った。続く市船5人目の増嶋竜也があっさりと決めて4−4となり、サドンデスへ。

 鹿実6人目の八坂が決めた後、市船の6人目で勝負が決まった。

 勝った鹿実・松澤隆司監督と「終始ウチのいいリズムで試合ができた。市船さんは優勝へのプレッシャーからか、市船らしい動きが見えなかった。本来の動きでなくて助かった」と語った。負けた市船・石渡靖之監督は「選手たちは良くやった。この状況で勝たせてやれなかったのは私の責任です。また来年、一からやり直します」と語った。

 

■本来の力が発揮できなかった市船 その原因は?

 この試合が終始鹿実ペースだったことは前述の通り。シュート本数でも市船9本に対して鹿実15本と、明らかに鹿実が市船を凌駕(りょうが)した。その原因は?

 ともかく、市船の中盤が戦術的に機能していなかった。それぞれの選手の動きも鈍い。その理由は大会前から伝えられていた天皇杯後の調整を難しさもあるのかも知れない。だが、別の理由も考えられる。

 今年の市船は、中盤のレギュラー選手がすべて本来攻撃的な選手だった。これまで市船であれば、ボランチの職人、黒子とも言うべき地味な存在の選手がいて、常に中盤の守備の気を配っていた。さらにボランチのカバーリングがある前提で、サイドバックの積極的なオーバーラップも可能になった。

 だが今年は4人の中盤がそろって攻撃の意識が高い。それでも、コンディションが悪くメンバーがなかなかそろわなかった高円宮杯や、チャンレンジ精神で臨んだ天皇杯は、守備の意識も高く、このメンバー構成でも問題を感じさせなかった。

 だが、優勝候補筆頭で臨んだこの大会は違った。緒戦で大勝したことも手伝ってか、明らかに中盤が前がかりになっているシーンが目に付いた。時には最終ラインが攻撃にさらされていても複数の中盤の選手が前線に残っていることもあった。

 また、国見高校の平山のような絶対的なストライカーがいない影響も大きい。話題になったカレン・ロバートも本来ストライカータイプではなく、ゴール前での粘りがある選手でもない。そして前線の得点力不足が中盤をさらに前がかりにさせる。攻撃的な中盤の選手は、前線の力で点を取れなくなると、ゴールへの欲求が強くなって高い位置に残りがちになるのは自明なことである。実際に人数をかける必要も出てくる。

 しかも、この大会の市船の中盤には、前線から守備にまで常に戻り続ける強さにも欠けていた。

 こうしたバランスの悪さがAこの試合で中盤の支配され、相手でリズムに与え、市船自身が本来の力を出せなかったと理由の一つと言えるだろう。

 

<上村智士郎 氏>

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/hs/column/2004/0105_kami_01.html  04/1/5

 

 

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