「4年前の善戦」との比較

■ハーフタイムに思いをはせた4年前のあの日

 前半を終わってスコアは0対0。

 ハーフタイムの記者席で、私は98年6月14日のフランス・トゥールーズでのアル[ンチン戦に思いをはせていた。ワールドカップ初出場の日本代表が初戦に最小得点差で敗れた、あの試合のことだ。

 試合そのもののことではない。0対1で試合終了の笛を聞いた時に、あの場で何を感じたかを思い起こそうとしていたのだ。今でもはっきりと覚えているのは、ただただ、「もったいない試合を落とした」ということ。当時の岡田監督が「アルゼンチンとは10回やって1〜2回勝てるかどうか」と言っていた。ワールドカップ初戦ということでリスクを冒さない戦い方をしたアルゼンチンに果敢に攻めていくことは出来なかったものか……。岡田氏が言う、まさにその1回が、4年前のあの日だったのではないかと、悔やんでも悔やみきれなかったのだ。ただ、あの試合は日本が点を取れるようなシーンがほとんどなかった。善戦ではあっても、「良くて引き分け」の部類だった。

「あー、今日もまた、あの時と同じ思いをするのかしら?」。後半が始まってもいないのに、私は善戦むなしくまたもや0対1で敗れ去る日本代表チームの姿を、不謹慎にも想像してしまっていた。と、気味が悪いほどすぐに(なんと開始2分!)、この悪い予感が的中してしまう。ハーフタイムでトイレに立ったサポーターたちがまだ落ち着かないザワザワした雰囲気の中で、一瞬のスキが最終ラインに生まれてしまった。自陣深くで与えたFK。最初にフリーにしてしまったオルテガを慌ててつぶしに行ったDF陣だが、今度はその背後に中盤から上がってきたソリンをフリーにしてしまった。そしてそのわずか2分後、またもやオルテガからのクロスを、目下絶好調男のクレスポが奇麗にヘディングでゴールネットを揺らす。「おいおい待ってくれよ、これじゃ善戦どころか大敗もあるのか?」と、記者席がざわめく始末だった。

 

■世界最高峰のチームに、劣勢から押し返そうとする日本

 ところが、ここからはこれまであまりお目にかかったことがない、新しい日本代表チームを見ることができた。その分岐点となったのは、後半12分の中村から三都主への交代だった。別に前半の中村が悪かったわけではない。前回のジャマイカ戦のような気負った感じはなく、何度か右サイドで名良橋と絡んでチャンスメークするなど、随所で存在感をアピールしていた。

 ただ、サッカーはちょっとしたリズムの変化がチャンスを生んでいくスポーツだ。三都主の中央や左からの力強いドリブルがアルゼンチンDF陣をほんの数歩前に引き出すようになり、これで中山と高原がフリーになるシーンが出てきた。

 余談だが、試合後の山本監督代行のコメントで興味深いものがあった。後半はスタートから数人を入れ替えて臨むようにジーコ監督からは引き継いでいたというのだ。これがだれかは分からないが、イタリア帰りの強行スケジュールやレッジーナへの配慮から、中村→三都主は「ジーコの引継書」にあったはずだ。「前半の良いペースをもう少し引っ張りたかった」(山本監督代行)という思惑が一瞬で崩れ去り、慌てて入れた三都主が確実に成果を出していた。もちろん結果論だから責められるさい配ではないが、山本監督代行としては悔しかったに違いない。

 三都主のドリブルが増えて一番喜んだのは高原だっただろう。前半はほとんどフリーにさせてもらえなかったが、アルゼンチンが全体的に日本の左サイドに注意を向けるスキを突いて、右サイドで果敢にアタック。29分、32分、そして43分と、どれもシュートか決定的なセンタリングに持ち込んでいた。結局、後半20分過ぎから終了までの約25分間は、日本の攻撃がひっきりなしに取材ノートを埋めていった。世界最高峰のチームに対して、劣勢の状況から自分たちの力で押し返そうと必死にぶつかっていった姿は、これまであまり記憶にない。

 

■今回の善戦は、4年前の善戦とは質が違う

 結果は0対2で4年前より1点多い。ただ、内容的にはむしろ「彼らに近づいた」のではないか? 試合終了後、ミックスゾーンでの選手コメントからも、それがうかがえた。

 4年前の敗戦を知っている中西は言った。

「4年前は1点差でも押されたなという思いが強かったが、今日は対等にできたという実感がある」と。

 松田に至っては

「個人的にはやってて楽しかった。アルゼンチンとはいろいろな状況でやってみたい。今度はうちが1点リードしちゃうとかね。もっと本気にさせたらどうなるか、ね」

 と、屈託なく語った。いいねー、その意気その意気。

 そして最後に高原。アルゼンチン人記者にリケルメの真似(得点時に両手を耳に当てるポーズ)を散々せがまれ、下を向いてテレ笑いしていたが、

「シュートまでは行ったけど、あれが入るようになるには何が足りないと思う?」

 と質問した私の眼をしっかり見据えて言った。

「こういう試合を何度も繰り返していく、つまり経験しかないです。プレッシャーの多い相手に対して今日のようにアタックし続けて……。そうすれば……」

 これまで、「善戦」という言葉は耳にたこができるくらい聞き飽きている。ただその内容は、やっとの思いで失点を抑える、つまり「耐え凌いだ末の善戦」が多かった。しかし、今回の善戦は違う。きっちりと自分たちの存在感を誇示しての「玉砕型の善戦」と言える。

 ワールドカップでベスト16を体験した代表チームは、「善戦の質」をアップグレードさせることに成功しつつあるように思う。チーム力が上がった証拠だ。これをさらに次の段階に押し上げるためには、前半19分の高原の右足シュートや後半43分の中田(浩)のヘディングシュートが、確実にゴールネットを揺らすことが必要だ。集中力と冷静さを、フィニッシュの一瞬に注ぎ込むにはどうしたら良いのか。

 答えのない旅に終わりはない。

<了>

(文=梶原弘樹 氏)

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/column/200211/1120kaji_01.html   02/11/20

 

 

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