ギリシャの成功と、敗れ去った強国の差は?

2004年7月6日

 

■心のどこかに張り付いていたギリシャの底力

 コーナーからクロスが上がる。飛んでくるボールのタイミングに合わせて敵味方入り乱れるようにジャンプする。たいていの場合、そこで紙一重の運命を決めるのは偶然の……「偶然」? たぶん、ピタリととらえてゴールネットを揺らす当人も、あるいは、クリアした当人も、また、それを注視する誰もが、使いたくない表現に違いない。だが、果たしてそうなのか。

 フットボールの神が求めているもの、この世で最も強い力は「偶然」だ。そう言った人がいる。特定の誰かに味方した偶然。それはつまり、誰よりも強い運命を持っているということだ、と。ユーロ2004(欧州選手権)本大会まで主要な国際大会で1勝も挙げていなかったギリシャの快挙、そのシンボルのひとりとなったアンゲロス・ハリステアスのゴールシーンを振り返るたびに、脳裏には「偶然」という言葉があぶり出しのように浮かび上がってくる。

 6月に入った頃だったか、何気なくテレビのチャンネルを変えた瞬間、画面いっぱいにクロースアップされたハリステアスのあの印象深い容ぼうに目がくぎ付けになったことは、今でも忘れられない。それはただ単に、あの“濃い”顔立ちと類のないギョロ眼だけのせいではない。たぶん、ユーロ本大会出場国代表を毎回フィーチャーするシリーズ番組のひとつだったのだろうが、実際に、しかも偶然に、目にしたのがこの“ギリシャの巻”だけだったというのは、あくまで個人的な事情だったに過ぎないとしても、妙に心にひっかかって離れなかったのは紛れもない事実である。

 ギリシャといえばもうひとつ、忘れ難い記憶がある。2002年ワールドカップ・ヨーロッパ予選のグループ最終戦、これに勝つか引き分ければ首位通過確定と意気上がるイングランドを相手に、常に先行して最後まで苦しめたあのオールド・トラッフォードの激戦。デイヴィッド・ベッカムの劇的な直接FK同点ゴールの見事な“お膳立て”をしたギリシャの侮れない底力は、以来、心のどこかに張り付いたまま消えないでいた。

     

■ハリステアスが持った強運

 そこで、あらためて「偶然」の話に戻る。ベッカムのトレードマークのひとつ、アーリークロスの主眼は、敵ディフェンスが防御の体勢を十分に取りきれないうちにゴール前にボールを放り込むことにある。いわゆる「ピンポイント」という表現は、走り込んでくる味方プレーヤーの位置を瞬間的に判断して、まさにあうんの呼吸でタイミングを合わせる“読み”がずばり当たったときに使われると思えばいい。

 必然的に、カウンターないしはカウンター気味の攻撃であれば、破壊力もスペクタクル性も倍加する。その極めつけの典型が、ユーロ2004指折りのファインゴール、あのブルガリア戦でヘンリク・ラーションが眼の覚めるようなダイビングで決めた一撃だ。

 そこでは「偶然」という言葉はほとんど当たらない。つまり、競り合うディフェンダーの数が自ずと限られ、そもそもディフェンダー自身も自陣ゴールに向かって走る、もしくは体重がかかる状況になるわけだから、ストライカー側が優位を築ける仕掛けである。

 ところが、コーナーキックの場合はまったく違う。言うまでもなく、防御する側はコーナーキッカーが誰に合わせようとしているか事前に察しがつき、理論上、万全の体勢で待ち構えることができる。もちろん、双方とも人形のように突っ立っているわけではない(だから、必ずしも「高さ」が有利に働くとは限らない)から、ゴール前でマークをいかに外すか外されまいかの細かい駆け引きによる小競り合いが生じる。そんなカオスの真っただ中にコーナーからボールが飛んでくる。もし、彼我の集中力に寸分の差もないとすれば、偶然が、運が、どこかで作用するという考え方はそう間違ってはいないはずだ。

 ハリステアスはこのところ所属クラブで起用されるチャンスがあまりなかったと聞く。故国からドイツに請われてやってきた以上、能力に疑問を抱かれる謂れはもとよりないとしても、“感触”から少し遠ざかっていたことは否めまい。それが、ここぞという大舞台で最高の仕事をやってのけたことに、その強運を認めてもいいと思う。

 

■ギリシャの成功と、敗れ去った強国の差は?

 ハリステアスの強運を呼んだのは、開幕戦以来1試合たりともほころびが生じなかった、泥臭さがにじみ出るような骨太なギリシャの組織プレーだったとも思う。おそらくは、ハリステアスに依存する気配を少しも感じさせなかったところに、今大会の成功の秘けつがあったのだ。

 思えば、国際的スターが居並ぶ“優勝候補”各チームは、総じて“その中でも最も知名度の高いスター(たち)”に無意識であれ依存する形になり、結果としてチームプレーが“点”でしか機能しない傾向にあったようだ。その点、出足でつまづいたポルトガルが、次第にフェルナンド・コウト、ルイ・コスタ、フィーゴが脇役に回るようになってから波に乗った感があったのは、さすがに世界チャンピオン監督のけい眼と恐れ入る。

 もうひとつ、ギリシャを筆頭に、これぞチームプレーとうならせる極めて実戦的なまとまりを見せてくれたチームは、大半のメンバーが自国以外のリーグでプレーしている点も印象に残った。スウェーデンしかり、デンマークしかり。かねてより“内紛”が絶えないオランダも、結果的に何とか面目を保ったと言えるだろう。ドイツ、スペイン、イタリアが揃ってグループリーグを突破できなかったのだから、なおさらその感が強い。

     

■必要以上に強まっていたルーニーへの依存度

 では、イングランドはどうだったか。約2名を除く“自前リーグ軍”の優勝候補にしては、チームプレーの点で少しは胸を張っていいと思う。とはいえ、それもひとつの伝統。準々決勝敗退後に「コンディション不良」を告白したキャプテン、ベッカムと、副キャプテンのオーウェンが、健気なまでに周囲を生かす脇役に徹していたのは、誰の眼にも明らかだ。このことは、実際にポルトガルのスコラーリ監督がずばり指摘している。

 決してひいき目ではなく言わせていただければ、ポルトガル戦のファーストハーフ半ばでウェイン・ルーニーの故障リタイアがなければ、あそこまで守備的にはならなかったに違いないし、結果も違っていたはずだと思う。あるいは、うがった考え方をするなら、ルーニーのブレイクが「早すぎた」のかもしれない。それほど、少なくともムードの上で、ルーニーに対する精神的な“依存度”が必要以上に強まっていたのは確かである。

 偶然にも、ポルトガル戦直前、しばらく音信がなかった知人と連絡を取る機会があり、イングランドにいる彼のビジネスパートナーから「ルーニーのレプリカシャツが飛ぶように売れている」という報告が届いたところだと聞いた。

 さもありなんと思いつつ、なぜかいやな予感がした。早すぎる。結果がどうあれ、ルーニー・ブームは大会後に火がつけばいいのに、と思った。さらに、チェコに大逆転負けを喫したばかりのファン・ニステルローイが「ルーニーとぜひコンビを組みたい」と公言し、メディアも「マンチェスター・ユナイテッドとチェルシーがルーニー獲りに本気で乗り出す」とうわさした。その金額、なんと約100億円。さしものエヴァートン監督、モイーズもクラブの財政難を胸に「本人が望めばしかたがないが……」と弱音を吐いた。

 そして“アクシデント”は起こった。むろん、そのことを「偶然」だとは言わないし、思いたくもない。ちなみにエヴァートンは、快復に最低でも約6週間かかると診断されたルーニーの放出について、あらためて「あり得ない」と確認声名を出している。

東本貢司 氏)<sportsnavi.yahooより>

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/euro/column/200407/at00001289.html

 

 

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