パリ・サンジェルマン U−12コーチからの手紙

4回 フランスの子供たちへのメッセージ

 

2004年12月7日

 

 ここ数年、フランスサッカー協会が毎シーズン子供たち(6歳〜12歳)に向けて配っているあるパンフレットがある。サッカーとどのように接していけばよいかのすすめ、手引きのようなものだ。これは本来は子供向けだが、内容をよく読むと、少年少女サッカーにかかわるコーチの多くが認識不足で実践できていない事実をよく表していることがよくわかる。確かに、アマチュアクラブなどでは腹がすっかりはちきれて、酔っ払ったようなおじさんが適当に子供たちにサッカーを教えてしまっている場面をよく見かける。自分がろくに正確なキックやパスもできないのにである。さらに、試合中はどなりっぱなしで、子供たちは萎縮しながらプレーしている。フランスサッカー協会側としては、こういう現実を回避するべく研修を受けさせているのだが、面倒でいかない人も多い。このパンフレットはそういう指導者に対し、手短にこの年代の子供への接し方、サッカーに取り組む姿勢を手引きしているともいえる。さて、パンフレットを開いてみよう。

 

■エメ・ジャッケから子供たちへ

「(競争などのスタートでかける掛け声の)位置について……」と題して、エメ・ジャッケ氏(元フランス代表監督)の言葉で始まる。

「ある人にとっては、これはサッカーの最初の扉かもしれないね……。少年、少女たち、ひょっとしたら、君たちはこのとても面白いゲームを見つけたところか、もう見つけて始めていることだろう。ぼくらはこれをフットボールと呼んでいるんだよ。そしてみんなのとりこにするこの丸いものをボールと言うんだ。

 ボールは君たちの友達だよ。いつかボールと君たちはお互いに隠し事なんかなくなるんだ。

 君たちはボールのことについてなら、なんでも知ってなくちゃならない。どんな跳ね方をするか、どんな回転をするか、そして時々起こるわがままをもね。さあ、今だよ。君たちがボールと一緒に、シーズンに沿って、大変だけど、いろんなテクニックを身につけなくちゃね。

 そして同時に君たちは仲間と親しくし、サッカーのルールを覚え、君たちの対戦相手、審判を大事にし、コーチのいうことをよく聞かなければいけないよ。

 戦い方や、フィジカルトレーニングを考えるのはまだ先だよ。それは、君たちが大きくなって時機がくればやることになるからね。

 だから、今はしっかり楽しまなくちゃ。打ち解けて、たくさんのユーモアがあって、友情を育んで、君たちの仲間と喜びを分かち合おう。

 サッカーはゲームだよ。ゲームは楽しまなくちゃ」

 

 そして、次のページからはジブリル・シセがアドバイザーとして登場する。

■シセのすすめ

「ぼくがサッカーを始めたのは6歳だったよ。すぐにフットボールが好きになった。ぼくの子供時代はこの一番お気に入りのスポーツを中心に回っていたよ。学校が終わった後、サッカーをして遊んでいたし、週末になると、サッカーの試合の話ばかりしていたね。

 ぼくの子供のころの一番の思い出は、母親がコスティエールというスタジアムに試合を観に連れていってくれたこと。兄のアブーの試合だった。彼はニームのクロコディールというクラブでプレーしていたんだ。

 うまくなるには、一番最初にプレーを楽しむこと。そして、対戦相手を大事にし、コーチの言うことをよく聞くこと。君たちも知っているとおもうけど、サッカーは何よりもゲームなんだからね。」

 

 ここから具体的に子供たちへのアドバイスが始まる。

■どうやって試合や練習に行くときの準備をするのだろう?

 サッカーの服装

・ユニフォーム、パンツ、ソックス

・レガース

・プレーする場所に合ったサッカーシューズ

・ジャージ、ウインドブレーカー

 試合の後

・着替え

・シャワー用具(シャワー用ジェル、タオル、サンダル)

・汚れたものを入れる袋を用意するのを忘れないこと

 君たちの持ち物をしっかりと選ぶこと。そうすれば試合中リラックスしてプレーできるよ。そして君がよいプレーをすること間違いなし。

 シセのアドバイス

「君たちのかばんの中に何も忘れ物がないようにするには、前日の晩に準備することだよ。しっかりと自分の服装を整えて準備することは大切なことで、それがよいプレーにもつながるんだよ」

 このページでは自分の持ち物の管理を徹底させようとしている。PSGでもロッカールームでは毎日のように何かがなくなって呆然としている子供がいる。信じられないことだが、自分の道具と間違って持って帰ってしまって、気づいても持ってこないのだ。最近はこんな子がいた。試合前になって初めて気づいた私も悪かったのだが、右足は青色のスパイク、左足は取り返式の赤のスパイクを履いて平気な顔をしているのである。尋ねると、自分で用意して、なぜか間違えていたという。この感覚は理解できない。

 

■どうやってよくトレーニングするんだろう?

 君たちのポジションが何であれ、キャプテンであろうがなかろうが、試合のメンバーに選ばれようが選ばれまいが、君たちが自分のチームでプレーする役割を担っていることを忘れてはいけないよ。

 コーチが自分のいつもと違うポジションでプレーをさせたとしても、それは君たちの長所と短所を知るためだし、どんなポジションでもプレーできるように君たちを上達させるためなんだよ。

 次のことはしっかりやろう。

・毎回の練習に参加すること。

・コーチの指示にしっかり従うこと。

・グラウンドで君たちがいるところに置いてある道具を大切に扱おう。

・チームが上達していることを誇りに思おう。

 君たちのクラブのレベルが何であれ、大事なことはコーチが言うことをしっかりこなして、みんなで向上することだよ。というのも、それぞれが上達することで、チーム全体が前へ進んでいくのだからね。

 良いプレーヤーになるには、まず良いチームメートになることだよ。

 シセのアドバイス

「みんな、ぼくはFWになる前はサイドハーフをやっていたよ。それでもよく1人で、ペナルティー付近の練習をしていたよ。すっかり準備ができたと思ったときすぐに、GKをやってくれるように友達に頼んだんだ。1人でやってるときよりも、もっとやる気になったね」

 このポジション変更による子供たちの大抗議はよく起こる。日本だと少ないかもしれないが、子供たちは自分にはこのポジションしかない、というのがあるらしく、よく話し合いになる。そういう時の説得の仕方をこの項でフランスサッカー協会はコーチに向けて発しているのかもしれない。現場でよく目にするのは、コーチが細かい説明もなく、「俺が言うんだからそのとおりにしろ」と高圧的に子供を押さえつけてしまい、子供はわけもわからずコーチの指示に従っているのである。

 

■試合のときはどのように振る舞えばよいのだろう?

<試合前>

 コーチの最後のアドバイスを聞いたり、準備するために試合の30分前に集合すること。

 そして、仲間と対戦相手とあいさつを交わすこと。

<試合中>

・ルールに従うこと。

・正直に、そしてフェアプレーを心掛けること。

・チームを助けること(ベンチにいたとしてもチームは君たちを必要としているよ)。

 大切なことは、勝つことではなくて、勝つためにすべて出し切ること。

 ハーフタイム

・コーチのアドバイスを聞くこと。

・ゆっくりと、少し水を飲むこと。

・体力を回復させるために少し食べること。

 君たちのチームのスコアが何点であれ、試合の始めと同じ気持ちで後半に臨むこと。

 シセのアドバイス

「ロッカールームに引き上げるときはいつも、遅れは取り戻せると自分に言い聞かせているよ。思い出してごらん。2000年ヨーロッパ選手権のイタリアとの決勝戦、94分目でビルトールが1点取って、追いついたよね。あのときは、誰もがイタリアが勝つと思っていたんだけどね」

<試合後>

・対戦相手と審判とあいさつを交わすこと

・リラックスしてロッカールームに引き上げること。

・試合に関しては、常に勝ち・負けがあるけど、もっと大切なことはプレー内容が納得のいくものであったかどうかだよ。

・勝ったときは、ロッカールームで勝利を仲間と称え合うこと。

・負けたときは、笑顔でなぜ負けたかを分析すること。

・すっかり気分転換するためにシャワーを浴びて、着替えること。

・カバンの中にしっかり自分の荷物を収め、汚れたものを分けること。

 試合の後はしっかり休むこと。

 家に帰ったら、家族に試合で経験したことを話してあげること。

 勝利を知るために、敗北の味も覚えておかなければならない。

 シセのアドバイス

「成長に失敗はつきものだよ。試合に負けたということは、君たちのチームがよくないということじゃないんだよ。ただ単に、君たちの対戦相手がよりよくプレーしただけのことなんだ。チームの中での良いコミュニケーションをしてまとまりがあれば、違いに気づくはず」

 負けたときに笑顔で試合を分析させるなんて、フランスサッカー協会も無茶を言うもんだ。笑顔で分析できるようになるほど、子供たちの気持ちはすぐには変わらない。せいぜい、コーチは落ち着かせて、時間が経ってから分析を行うのが一般的だろう。トーナメント大会などで試合がすぐに続く場合は、修正点を早めに認識させて次に備えることが重要ではある。例えば、強豪相手に惜しくも敗れ、自分たちのすべてを出し切って負けたから恥じる気持ちはない、という雰囲気を作ること、などである。

 

■どのようによく食べて、よく眠る?

 試合の前日は糖分を含んだ食事を心掛けよう。糖分はパスタや米に含まれているよ。糖分を採れば、君たちの体に試合を戦うためのエネルギーが蓄えられるんだ。

 朝ご飯

・エネルギーのための穀物食

・骨を丈夫にするカルシウムのための乳製品

・ビタミンのためのフルーツ(ジュース)

・体に水分を与えるための飲み物

 試合の日は、その2時間前に食事を済ませておくこと。

 食事をしっかりと適切にとれば、君たちはいつもよりももっと良いプレーができるよ。

 シセのアドバイス

「定期的に水分を取ること。多すぎず、冷たすぎないものをね。試合前、ハーフタイム、試合後にもね」

 PSG(パリ・サンジェルマン)でもこの点は非常に気を使っている。毎回の練習で各自が500CCのボトルに水を入れて持ってくる。練習前に一度少し飲ませ、大体15分置きに一口二口飲ませるようにしている。問題は、先ほどの項ともリンクするのだが、空になったボトルを平気でグランドに置いてかえってしまうことである。私が注意したとしても、自分のさえ持って帰ればあとは知らないという態度をほとんどの子供たちがとることである。日本人のようについでだから他人のごみも捨ててあげる、というボランティア的な発想はないのである。

 

■フットボールすべてにかかわるものを大切にしよう

 引率者、コーチ、審判、パートナー、対戦相手、試合観戦者、試合のルール、社会のルール、すべてを大切にしよう。もしこれらを大切にしないなら信頼関係は生まれないよ。 フェアプレーを心掛けよう。それは審判の決定を受け入れることでもあるし、自分の間違いに気づくことでもあるよ。

 エメ・ジャッケのアドバイス

「よく知っておいてほしいのだけれど、ワールドカップでフランスチームが優勝したのは、一人一人のまじめさ、チームの中の信頼感、何かをすすんでやろうとする自発性のおかげなんだよ」

 グラウンドで大事な5点

・サッカーを通して、しっかり楽しみ、上達し、才能を発揮すること。

・サッカーのルール、社会のルールを発見し、身につけ、大切にすること。

・チームに溶け込み、自分の居場所をみつけること。

・他人を誉め、大切にしながらプレーすること。

・熱意を持って、みんなと協力しながら生活しよう。

 シセのアドバイス

「審判がそこにいるのはルールを守らせるためだよ。時に審判が間違った判定をしたと感じても、思い出してほしいのは、彼がいることでゲームがバランスよく展開されるということなんだ。」

 

 以上、フランスサッカー協会パンフレットを紹介したが、これはU−12コーチ研修でもしつこいぐらいに繰り返される内容である。子供たちに、サッカーを楽しみながら、正確な技術を身につけさせ、社会のルールを同時に覚えさせる。単純なことだが、現代の社会で何人の大人がこれを実現させることができるだろうか。フランスでは12歳までを受け持つものはコーチではなくて「教育者」と呼ばれる。子供たちには常に良い見本、模範である必要がある。自らをしっかり律し、自分に疑問を向け続けることができるだろうか。私はまだまだ経験も少ないしよい見本ではないかもしれないが、それを目指し挑戦しつづけていることで、またその悩む姿を子供に見せつけることで、「教育者」をかろうじて体現している。

 

 

■樋渡群/Gun HIWATASHI

1978年6月9日生まれ。広島県広島市中区千田町出身。フランス・パリ在住、フランスサッカー協会コーチライセンスU−12、U−18、シニア部門の3つを取得。現在は、パリ・サンジェルマンのU−12コーチとして活動するかたわら、コーチ国家試験に挑戦中

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/france/column/200412/at00003235.html

 

 

 

 

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