最終予選へのリアリズム ――日本vsシンガポール

2004年11月18日

 

■ 2010年を見据えるシンガポール

 シンガポールという国は、小さな、本当に小さな都市国家である。総面積は639平方キロメートル、人口はおよそ300万。淡路島くらいのわずかな国土に、茨城県とほぼ同じ国民が暮らしていることになる。1965年、それまで加盟していたマレーシア連邦が、マレー人優遇政策を断行したことに反発して独立。その後は「シンガポールの奇跡」と呼ばれる高度成長を遂げ、経済面と国民の教育水準ではASEAN(東南アジア諸国連合)随一を誇る。ただしサッカーに関しては、最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングで118位(リベリアとバルバドスの間)。日本の17位(ギリシャとウルグアイの間)と比較すれば、両者の力の差が歴としていることは明白である。

 すでに、2年後のワールドカップ出場の夢を絶たれているシンガポール。彼らにとっても、今日の日本とのゲームは「消化試合」であった。それでも、今日の結果に明確な意義と希望を見いだしたのは、日本ではなくシンガポールであったと私は考える。それは、セルビア人監督、ラトコ・アブラモビッチの試合後の会見からも明らかだ。

「最初に日本と対戦したときよりも、シンガポールが進歩していることは、今日の試合で証明できたと思います。われわれが長期的に一生懸命努力していることを分かってもらえたのではないでしょうか。

 シンガポールの選手は、1983年、84年、85年生まれが大半の若いチームです。それ対して日本は、ほとんどの選手が25、6歳の脂が乗り切っている年齢でした。あと2年もしたら、日本のレベルに到達できればと考えています」

 アウエーでアジア・チャンピオンと対戦し、0−1と惜敗したという事実は、彼らにとって非常に大きな成果ではなかったか。もちろん今日の試合は、日本にしてみれば「絶対に負けられない」ものではなく、ゆえにこれまで出場機会の少ない選手が大半を占めており、さらには多くの不運もあった(何しろシュートを21本も放って、一度しかネットを揺らすことができなかったのだから)。とはいえ、それらの条件を差し引いても、アブラモビッチ監督も若い選手たちも、ひそやかな満足感と誇りを胸にして帰国の途に就くことだろう。

 今日の試合のパンフレットによれば、シンガポールの協会は「GOALプロジェクト2010」を発足させ、協会とリーグが一丸となって6年後のワールドカップ・南アフリカ大会出場を実現させるべく、ユース世代の強化に意欲的なのだという。もちろん、2年後に「日本のレベルに到達できれば」というアブラモビッチ監督の願望は、あまりに楽観に過ぎるようにも思える。が、6年後のシンガポール代表が大化けしている可能性は、十分にあり得る話だ。こうした将来を見据えた強化は、何もシンガポールに限ったことではなく、いまやアジアのあちこちで行われている話であることを、われわれは十全に認識しておいた方がよさそうだ。

 

■ 日本に花試合をする余裕はあったのか?

 さて、日本代表である。

 今日のシンガポール戦は、われらが代表にとって、どのような意義があったのか。私としては、ジーコ監督の「1次予選を全勝できて、大変満足している」という言葉よりも、むしろミックスゾーンで耳にした選手たちの言葉のほうが、非常に気になった。

「あまりサッカーをやっていた気がしなかった」(大久保)

「初めて予選にスタメンで出られて、雰囲気は分かったけど、それだけで終わってしまった。みんながどういうサッカーをするのかは、試合に出ないと分からない」(藤田)

「気持ちが入りすぎて足をつってしまった。試合自体が久しぶりだったので」(三浦)

「やっぱり試合に出ないと分からない。そういう意味で、今日は出られてよかった」(本山)

 選手一人ひとりが、今後のために自分のプレーを反省する。そのこと自体は、至極まっとうな話である。特に、久々にA代表に招集された若い大久保であれば、なおさらのことだろう。だが、それこそ「脂が乗り切っている年齢」以上の選手たちまでもが、一様に「試合自体が久しぶりだったので」とか「今日は出られてよかった」などと口にしている状況には、これまでの経緯を重々承知していても、やはり異様に思えてならない。

 出番が限られている国内組(別名「サブ組」)ではあるが、今日スタメンで起用されていたメンバーの大半が20以上の代表キャップ数を有している(本山は18、玉田は17、土肥は2)。藤田に至っては、33歳のベテランであり、ヨーロッパでのプレー経験もあるのだ。そんな彼でさえ「雰囲気は分かったけど」という言葉を口にする。

 私にしてみれば、ホームでシンガポール相手に辛勝したことよりも、むしろ彼らのキャリアや年齢に不相応な「フレッシュなコメント」に、何とも形容しがたい危機感を覚えてしまった。

 スタメン組とサブ組との間には、青いユニホームを着てピッチに立った時、これほどまでの乖離(かいり)があった――極論すれば、それが今日の試合の結論であったと思う。薄々、気付いていたことではあったが、その事実が明らかになっただけでも、今日の試合は非常に意義があった。だが逆に考えれば、今日の試合がもし、ジーコが当初希望していたという「功労者をリスペクトするための」花試合になっていたらと思うと、何やら首筋に鋭利な刃物を押し当てられたような気分になるのも事実である。

 それでも指揮官は、試合後の会見を聞く限り、やはり功労者の招集に多少の未練があったようだ。

「実際に(功労者たちが)代表に呼ばれても、ある程度は自分たちのサッカーを見せてくれたと思います」

 確かに、そうだったかもしれない。だが、果たして今の日本代表に花試合などをやっている余裕など、本当にあったのだろうか。

 

■ 来年の日本代表も「変化なし」?

 前半13分、左サイドに流れた本山から絶妙なスルーパスが、相手ディフェンスの裏に進入してきた玉田に渡り、見事ゴール右隅に突き刺さった瞬間、私は今日の試合がワンサイド・ゲームになることを予感した。サブ組のゴールラッシュで、この1次予選を締めくくる――これ以上の理想的なストーリー展開もないだろう。彼らがこのチャンスで存在感を示して初めて、「チームは強くなった」とも「チームは進化した」とも「チームはひとつになった」とも言える。そうなったら、交代は玉田OUT/大久保INだけでいい。三都主は鈴木さんに代わって「通訳」に専念してくれてもいい……。

 そんな私のひそやかな期待は、しかし、時間の経過とともに無残にしぼんでいった。大久保の登場は後半14分に実現したものの、期待されたA代表初ゴールはオフサイドによって幻に終わってしまった。小笠原は今年2月のイラク戦以来、藤田に至っては95年のサウジアラビア戦以来のフル出場を果たせぬまま、いずれも途中でピッチを離れることとなった。結局、ジーコが切った残り2枚のカードは、ここ10試合以上ずっとスタメンで起用され続けてきた、鈴木と三都主。彼らはやはり、ジーコにとっては不可欠な存在であったことが、この交代で明らかになった。三浦と松田は、今年初めてのフル出場を果たしたが、次の出番が訪れるのはいつのことになるのか、それは「神のみぞ知る」である。

 ところで、この試合で代表通算5ゴール目を挙げた玉田は、今年のジーコ・ジャパン唯一の「発見」であった。代表デビューを果たしたのは、奇しくも同じシンガポール戦。以後、アジアカップではけがを押して出場し続け、見事に前線の一角に食い込むことができた。だが、今年になってジーコが新たに見出し、コンスタントに出場を果たしているのが玉田だけというのは、何とも寂しい限りではないか。

 結局のところ、新しい血の注入がほとんどなかったのが、この1年のジーコ・ジャパンであった。どんなに周囲が「大黒だ」「村井だ」と叫んでみても、この状況が劇的に変化するとは思えない。そして来年2月から始まる最終予選では、ジーコが一日千秋の思いで待ち続けた海外組が、そろって戻ってくることだろう。

 このシンガポール戦で、サブ組が目覚しい結果を残せなかったこと、そして不慣れな4−4−2システムを敢えて敷いたことは、来年の最終予選のピッチに立っているメンバーのアウトラインを如実に示していると言えよう。中盤はオール海外組、前線は高原と鈴木、4バックは右から、加地、中澤、宮本、三都主、そしてGKは川口。昨年のアルゼンチン戦のような「大量絶滅」でも起こらない限り、そして誰かが大きな負傷をしない限り、ジーコは基本的にこの11人でドイツを目指すはずだ。

 

■ 予選は勝利こそがすべて

 と、ここまで書いたところで、知らず知らずのうちにため息をついている読者に、ふと思いを巡らせてみる。もちろん私とて、読めばブルーになるようなコラムを好き好んで書いているわけではない。単に今日の試合を受けて、さらにはジーコの立場に立って、来年の最終予選を展望してみれば、結局のところすべてが「予想の範囲内である」という事実に誰もが気付くはずだ。それを、あらためて指摘したまでの話である。

 思い出してほしい。ジーコが考える日本代表監督としてのミッションは「日本をドイツに連れて行く」この一点である。それは、当人が何度も明言しているではないか。決して彼は、シンガポールの監督のように2010年以降を考えているわけではないのである。そして、2年後にドイツの晴れ舞台に立つためには当然、厳しい最終予選を勝ち抜かなければならないわけで、そのためには指揮官が考えるベストのメンバー、ベストの布陣で臨む以外に方策はない。それが来年の最終予選に臨む、日本代表の現状なのである。

 予選は勝利こそがすべて――勝利の追求のためならば、われわれファンが代表に求めるさまざまなエンターテインメントやロマンを、ジーコのリアリズムは言下に否定することだろう。そう、予選は勝利こそがすべて。「絶対に負けられない戦いがそこにはある」という某テレビ局のキャッチコピーは、実はジーコ・ジャパンの本質を見事に表現している。

 しかし、だからといって、それほど落胆することはない。今の代表に、エンターテイメントやロマンを求めるのは極めて難しいが、少なくともスリルとサスペンスは存分に味わうことができる。そんなわけで最後に、来年の最終予選で日本が対戦することになるであろうライバルたちについて、簡単に触れておくことにしたい。

 晴れて最終予選を決めたのは、日本以外に、イラン、ウズベキスタン、クウェート、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、バーレーン、韓国、サウジアラビアである。イランは何とかヨルダンの追撃をかわし、クウェートは中国との「劇的な」デッドヒートに競り勝って、共にドイツに向けて大きな一歩を踏み出した。永遠のライバル・韓国は、最後まで国民をやきもきさせたものの、それでもレoノンとの地力の差を見せて、最終予選進出にコマを進めている。

 全体で見ると、中東勢が4、東アジアが3、中央アジアが1。このうち、日本が先のアジアカップで対戦しているのが、イランとバーレーンの2チームだけというのが、個人的には気になる。シードを考慮するなら、韓国との対戦は避けられそうだが、逆に北朝鮮との対戦の可能性はぐっと高まりそうだ。両者は政治的な問題もはらんでいるだけに、サッカー以外の場面でのプレッシャーを覚悟しなければならないだろう。イランとサウジといった中東の大国は、もちろん多いに警戒すべき相手ではあるが、日本協会もそれなりに情報は持っているはずだ。むしろ躍進著しいバーレーン、そしてどんな新しいタレントが飛び出してくるか分からないウズベキスタンには、くれぐれも注意しておいた方がよい。いずれにせよ、一筋縄ではいかない相手ばかりである。

 だからこそ、勝つしかないのだ。目先の勝利にどん欲になるしかないのである。ジーコ・ジャパンの功罪について、われわれが評価を下すのは、まだしばらくは先の話である。

 代表の現状に対する不満は、誰もが多かれ少なかれ持っていることだろう。しかしながら、来年の最終予選を迎えるに当たり、心からドイツで日本代表を拝みたいのであれば、われわれファンは現状を踏まえた上で、勝利のリアリズムに徹するべきではないか。

 幸か不幸か、私たちはシンガポールのような「夢見る時代」を、すでに卒業してしまった。「夢見る時代」を過ぎれば、やはり「大人」になるしかない。

<了>

 

宇都宮徹壱 氏/Tetsuichi Utsunomiya

1966年福岡県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旧共産圏のうらぶれたスタジアムと、現地で飲む酒をこよなく愛する。著書、『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)。近著に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)

 

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/column/200411/at00003108.html  04/11/16

 

 

ジーコ日本辛勝に笑う男「カズがいたら…」

夕刊フジ - 11月18日

 

 大失態試合に大笑いしたのは誰? サッカーW杯アジア1次予選ですでに最終予選に進出している日本は、消化試合とはいえ超格下のシンガポールに1−0の辛勝。1次予選を6戦全勝で終え、「目標である勝利で終わることができた」と、ジーコ監督の顔には当然のごとく笑みはない。日本協会・川淵三郎キャプテンも、「5万8000人もつめかけてくれたサポーターに本当に申し訳ない気持ちでいっぱい」と平身低頭。内容は『0点』の90分だった。

 苦戦の原因は山ほどあるが、「2010年のW杯出場を目指す編成で23歳以下が中心メンバー」(シンガポール・アブラモビッチ監督)に1点しか奪えなかったのは紛れもない“現実”。ジーコ監督はハーフタイムに、「何を恐れているんだ。もっと攻めていけ。横パスや後ろにボールを回すな」と珍しく激怒したという。それさえも通じなかった。

 この失態試合にサッカー界で笑いが止まらなくなった人は数多い。その第一番手はカズ(神戸)ら、当初はこの試合に出るはずだった日本代表の功労者選手たち。

 彼らのうち、ある選手はみけんにしわを寄せてこう言った。「ジーコが来てほしいと言えばもちろん行きました。でもね、今の代表には問題点もとっても多い。それを選手たちで解決できていないでしょ」。

 さらに、「今の若い子はきれいにやりすぎる。泥臭さがない」と、来年2月に開幕する最終予選に警鐘を鳴らした。

 川淵キャプテンは、「カズがいたらもっと気合が入っていたはず」とポツリ。ジーコ監督も、「彼らには敬意を払っている。彼らが来たらもちろんやってくれたと思う」と悔やんだ。この2人が功労者の出場を強行させていれば、展開は変わっていたに違いない。

 また、イタリアで調子がイマイチの中田英寿にとっても、この90分は朗報だろう。

 ジーコ監督は、日本サッカー史上初のW杯1次予選の全勝指揮官になった。「この予選で私のクビを太くしてくれたのは選手たちだ。チャンスは多く作っていたし満足してます」。

 ジーコジャパンの今季公式戦はこれで終了。消化試合のはずが、後味の悪い消化不良になっていては、再びクビが細くなる日が来るのも早い。

 

■ 通訳なしの事態もホッ

 辛勝に一番冷汗をかいたのは、ジーコ監督の“影武者”鈴木国弘通訳。オマーン戦で暴言を吐いて退場となり、シンガポール戦はベンチ入り禁止。代役の通訳は、三都主が務めていたが、後半40分に緊急出場して、ジーコジャパンはまさに通訳なしの非常事態に陥っていた。

 「とてもゆっくり見れなかった。いろんなところをウロウロしてました」と、鈴木通訳は苦笑い。処分はこれで解け、最終予選ではこれまで通り、ベンチでジーコ監督のそばにいる。

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041118-00000018-ykf-spo

 

 

 

 

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