パリ・サンジェルマン U−12コーチからの手紙

第2回「パリ・サンジェルマンU−12事情」

 

2004年9月29日

 

 今回は私のボスである、パリ・サンジェルマンU−12部門責任者ジェローム・クラン氏との会話を楽しんでいただく。木曜日の夜、練習が終わって、ジェロームも私もクタクタに疲れていたが、サッカー談義、こと自分たちのチームの話になると時間も忘れてつい話し込んでしまう。いつものように各選手の長所、短所、性格、実際に行ったトレーニングの内容などを、まるで愚痴でもこぼすかのようにお互い言い合う。コーチは一応そのカテゴリーの全選手の顔、特徴は把握しており、会話の中の情報でAチームに上げたい選手、Bチームに落としたい選手が決まってくる。そして、この日は日本人についても話が及んだ。

 

■日本人の印象

「3年前、名古屋グランパスエイトのU−12がフットサル大会に出場していて、そのとき初めて日本サッカーを目の当たりにしたな。確か、監督は日本人ではなくてルーマニア人だったと記憶している。足元の技術は申し分なく、非常に卓越していた。ポジショニングについてもよく指導されていた。早いパスワークが印象的だったな。ただ、やはり日本人は体格が欧州連中に比べて小さいし、気質は控えめでおとなしいから、激しい球際の競り合いでは負けてしまうよな」

――それは、特に、相手がドリブルを仕掛けたときに、肩や腰を入れてあたりに行かず相手に平行して走ったりしていなかった?

「う〜ん、そこまではよく覚えていないな。何しろフットサルだったからね。外のグランドでやる試合とはまた違う要素がたくさんあるから」

 

■体格差

――その体格の差についてだけど、今年のジェロームのAチームは日本人みたいにみんな小さいね

「それなんだよ、おれが一番悩んでいるのは。おまえもよく見ているだろ? 毎年ここのグランドで行われている13歳部門の国際大会を。去年はお前の国の日本からはFC東京、イタリアからはパルマ、ロシアからはスパルタク・モスクワ、ドイツからはバイエルンミュンヘン、我がフランスはやはりすべてプロクラブで、メッツ、ソショー、ルアーブル、ランス、サンテティエンヌ、ストラスブール、ボルドー、リール、リヨン、トゥールーズ、という具合に強豪が参加していたよな。彼らになんとか競り勝って2年連続優勝したパリ・サンジェルマンだけど、特にDFに体格のよい選手を置いていたのに気づいただろう? 世界で勝ち抜くというのはそういうことなんだ。技術うんぬんよりも、まず体格のよい選手を集めることがおれたちの仕事なんだ。サッカーにはよく身長差は関係ないといって、リザラズやマケレレやジウリーを例にあげてくる人がいるけれど、彼らだってやはり例外だよ。背が低くて世界で勝ち抜くことは非常に難しくなっている」

 

■よい選手の選び方

――この年代で体格が良くてなおかつうまい選手ってなかなか見つからないんじゃない?

「毎週土曜日、イルドフランス地域リーグの試合があるだろ。その時、常に目を光らせているよ。体格がよくて動きが鈍くなさそうなら声をかける。すぐに練習に参加してもらって、何日間か試して取るかどうか決めるんだ。去年は残念ながらそういう選手が見つからずお前のいうとおり、おれの選手は全員日本人だ(笑)」

――でも、U−12ではやはり体格のよい選手ばかりで構成できるのはまれでしょう? 日本人はまさにそこが大きな問題で、あなた方に勝つために組織プレーを基礎にして、技術の精度、パスワークの速さなどで勝負しようとしているんだよ。小さい人間が大きい人間に勝つにはパスで振り回して相手を疲労させるとか、急所にジャブを打ち続けるとか、心理戦に持ち込むとか。実際に一瞬のスピードの速さではおれたちのほうが速いからね

「まあ、そうだな。もうひとつには視野の広さも挙げられるよな。サッカーが本当にスピーディーになってきているから、考えながらプレーできる時間が本当に少ない。おれたちは、小さいころからボールを持っているときですら頭を上げて周りを見ながらプレーさせているし、ボールと人間が止まらないようにトレーニングしているよ。それは本当にしつこいぐらい徹底させているよ。最初のコントロールでボールを足元に止めてしまうと、ディフェンダーの餌食になってしまう。かといってそのボールをどこにコントロールしてもいいわけではない

――そうか。ジェロームとおれのチーム(AチームとBチーム)の差はそこにあるのだな

「ふふふ。どうかな。AチームとBチームとの差について言いたいのなら、リフティングやコーディネーションなどの基本的なテクニックの時点で6、7人は明らかにずば抜けてうまいぜ。あとの6、7人はBチームとほとんど大差ないさ。そいつらは常にAとBを行ったり来たりするんだ。Bチームで上位何人がAでプレーできると思う?やはり6、7人だろう? いや、もっと少ないかな」

 

■リフティングの効能

――パリ・サンジェルマンでは本当によくリフティングをやらせるよね。試合ではあまり使わないのに

「それはそうだが、リフティングは足でボールを正確に触る感覚を養うには最適だぞ。このカテゴリーでは筋肉と骨などの関係からロングキックはほとんどやらせないが、その基礎になるのはリフティングにあるんだ。リフティングで足のどの部分でボールのどの部分を叩けばボールがどう飛んでいくかを体得しておけば、ボールを地面に置いた状態でもキックは正確に飛ぶさ。さらに、リフティングはサッカーの試合に必要なステップを踏みかえる訓練にもなって、コーディネーション能力もあがるというわけさ。ボクサーがやる縄跳びなんかはうちでもやるしな」

――ウォーミングアップにいつもブラジル体操をやっているけれど、あれもコーディネーションを高めるためだよね。でも、選手たちの中には間違ったフォーム、リズムで繰り返している者が見受けられるけれど、放っておいていいの?

「いや、時々修正する必要はあるよ。おれはね、昔はブラジル体操ではなくてラジカセを持ってきて選手と一緒になってダンスをしていたんだ。アフリカンミュージックなんかはリズム感を養うには最適だったよ。今ではクラブ側がいろいろうるさくて、そういうことはできなくなった。統一感がないし、見た目がよくないってさ……」

 

■模範

――パリ・サンジェルマンはやはりそういう外見面というか、礼儀や行動に対してうるさいほどに選手たちに徹底させるよね

「プロクラブっていうプライドがあるからね。そこでやっている選手には、コーチは言うまでもないけれど、世間に対して良い見本、模範でなければならないという教育はしているよ。時間厳守、あいさつから始まって、シューズは毎日きれいに磨いているか、ユニホームはきれいに洗濯されているか、試合中は審判に文句を言わないとか、痛くもないのにプロ選手のようにグランドにうずくまらない、とかね。そういうのは、日本人はかなり徹底されているようだな。まあ、行き過ぎの面もあるだろうけれど、規律が浸透しているようだし、子供たちがよく大人の話を聞くのだろう?」

――そうだね、強いチームになればなるほど、そういう面もあると思う

 ふと、窓の外を見ると夜も深まりそうになっているではないか。ナイターでトレーニングをやっていた女子チームも、ああでもない、こうでもないと大騒ぎしながらロッカールームへ引き上げていくのが聞こえる。土曜日はプロも含めて全カテゴリーが試合をする。コーチ同士のサッカー談義が各会場、各家庭で花を咲かせ、まるでイタリアの試合直後のテレビ番組のように、いつ果てるともなく、しかしその議論の中から何かを生み出し、またトレーニングに戻っていく。今回のジェロームとの会話をさかなに、どこからともなくさまざまな議論が湧き起これば、これに勝る喜びはない。

 

 

■樋渡群/Gun HIWATASHI

1978年6月9日生まれ。広島県広島市中区千田町出身。フランス・パリ在住、フランスサッカー協会コーチCセンスU−12、U−18、シニア部門の3つを取得。現在は、パリ・サンジェルマンのU−12コーチとして活動するかたわら、コーチ国家試験に挑戦中

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/eusoccer/france/column/200409/at00002669.html

 

 

 

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